奇妙な提案、それは今思えば、ヤヨイの心の底に潜む闇に由来していたに違いない。
自分の恥態を見られることに固執するヤヨイ。
勿論、私にも恥ずかしいと感じることにより、昂ぶってしまう要素はある。
あられもない姿を、露わにした肌を、淫らな行為を、はしたないと思われることに昂ぶるのは、程度の差こそあれ万人の性癖であろう。
ヤヨイの場合、それの度が過ぎていた。
常にではないが、狂気を孕んだ眼で恥辱を求めることがあるのだ。
「・・映画館に行かない?」
『映画を観に行く』のではなく、『映画館に行く』という誘い文句に違和感を覚え、問い掛ける私に虚ろな物哀しい笑みを浮かべるヤヨイ。
上映している映画自体には、さほど興味はなく、むしろ観客が少ない方が良いらしい。
ある初夏の休日、隣接する市の中心部に私達は足を運び、ヤヨイが推奨する映画館に辿り着いた。
その映画館は、研究者や評論家等、いわゆるマニア好みの作品を選択して上映しているらしく、お世辞にも繁盛しているとは思えず、客席数も六席が五列の三十席程度、満席になることは皆無であろうことが見て取れる。
チケットを買い、入館した私達は席に着くが、上映開始まで間も無いにも関わらず、他には三名程の観客が最前列の席にいるのみだ。
それはスクリーンに予告編が映し出された頃であった。
「ね、見て・・・。」
消え入りそうな声でヤヨイは呟いた。
退屈極まりないスクリーンに向けていた顔の向きをヤヨイに向けた瞬間、私はギョッとする。
暗闇の中で薄く笑うヤヨイの顔は、いつものヤヨイではなかった。
狂気に歪んだ微笑みに彩られたヤヨイの顔。
だが、それだけではない。
汗ばむような陽気にも関わらず、その日、ヤヨイはデニム地の、しかも長袖でマキシ丈のワンピースを身に付けていた。
ヤヨイは首元から下に向かってボタンを外していく。
既に乳房は露わになり、下腹部の肌が覗き始めているが、それでもヤヨイの指は動き続ける。
ヤヨイは一切の下着を付けていなかった。
外国語のモノローグとともに映画が始まった。
※元投稿はこちら >>