エレベーターの上昇は五階で停まり、開いたドアから廊下に出た少女は、あるドアの前で立ち止まり、またもやテンキーでセキュリティを解除するとドアを開けた。
僅かに憐れむような表情を浮かべ、少女は私を招き入れようとするが、決心がつかない私は立ち止まってしまう。
しょうがない、といった様子で少女は私に囁いた。
「・・誰にも知られたくないことがあるんでしょう・・。」
少女が私の身に何かがあったことを知っているのは明らかである。
少し考えてみれば在り得る話だが、私にとっての衝撃は大きかった。
そして、知る者をこれ以上増やしたくないのであれば、従うしかないと仄めかす。
遠回しな脅迫であった。
息を呑んだ私は、悄然として少女の後に続くしかない。
招き入れられた部屋は二十畳程の応接室であった。
重厚な調度品が設えられ、部屋の中央にはソファとローテーブルが配置され、一人の男が腰を下ろしている。
年齢不詳、痩せた身体つきにも関わらず、威圧感のある男に勧められるまま、私はソファに腰を下ろした。
ばさり
男がローテーブルの上に放り出すようにして封筒を置いた。
中身を見なくとも見覚えのある厚みが、その封筒の中身を私に告げる。
誰にも知られたくないことを知っている人間がここにもいた。
「・・言っておくが君に拒否権はない・・。」
言葉にこそ出さないが、拒否すれば、それでも何とか続いていた私の日常が、完全に崩壊してしまうのだということが理解出来てしまう。
男は少女に合図を送った。
「・・こっちへ・・。」
別室に移動すると、少女は私にシャワーを使えと言う。
見知らぬ他人の家で、しかもあの男がいるにも関わらず、無防備な姿を晒すことなど願い下げであった。
「・・知られたら・・人生、終わるよ・・?」
私の考えを読み取ったかのように少女は呟く。
屠所に引かれる羊のように、私は眼の前の現実を受け入れるしかないのだろうか。
完全に主導権を奪われたまま、私は渋々制服を脱ぎ、バスルームでシャワーを使う。
髪と身体を洗い流した私が、バスタオルを巻き付けてバスルームの扉を開けると、少女が着替えを差し出してきた。
これに着替えよという意味だが、手に取って広げた瞬間、泣き出しそうになるほどに薄い一重の生地で作られた浴衣のようなものである。
しかも下着の類は一切無し。
入念に肌の水分を拭き取り、渡された浴衣らしきものに袖を通すが、浴衣より更に始末が悪いことに丈は膝上までしか無く、袖は二の腕を半分も覆わない。
まるで和装用の夏物肌着のようだ。
前身頃は、作務衣のように左右の脇に縫い付けられた紐で結んで閉じる。
極く薄い紅を刺したような薄く滑らかな生地、予想に違わず、未だ成熟には程遠いとはいえ、躯のラインがクッキリと浮き上がっていた。
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