繁華街を抜け、住宅街に入ってしばらくすると利紗子が、「こんな所に在るんですか?」とまだ余裕のある口調で尋ねた。母さんは、「こういう静かな場所にも案外名店があるんですよ」と答える。「そうなんですか。詳しいんですね。でも、茜さんも一緒に来れば良かったのに」「あの子は気まぐれで、夜の街で遊んでいたいんでしょう」「そう・・・」本当は、明美への性虐待で後からどれだけひどい目にあわされるか不安で、見ていたいけれども今回はやめておくと引き下がったのだった。同級生たちの身辺が急に変わって先ず疑われるのは、日頃仲の悪いこの自分で、報復も怖かったと後に茜は僕に打ち明けた。それは本心かもしれない。 四十分くらいした頃、利紗子も不審に思い、「まだなんですか?」と母さんに尋ねた。「もう少しですよ。楽しみにしてて下さい」「・・・」一方の僕や明美たちの車内ではすでに明美が怒り出していて、「いつまで掛かるのよ?もう民家ばかりじゃないの!」と騒ぎ出していた。「レストランは繁華街ばかりに在るんじゃないよ」僕はわざと凄みを聞かせて言い返したが、それが明美の怒りを大きくしたらしく、「何よ!あんた、いったい誰?本当に茜のお兄さん?」と負けずにやり返してきた。「そうだよ」「・・・もう、帰りたい!」「ドアを開けると危ねえぞ!」「明美さんに手を出したら大変よ!」と、後ろの一人が警告した。「どう大変なんだ?」「お父さんがあんたを生かしておかない」「・・・」それを聞いて、強気でいた僕は緊張した。「そうよ。あんたなんか簡単に殺せるんだから」「やくざとかで?」「そうよ!」「・・・・・」それはあながち嘘とは思えず、ハンドルを握る手が強張った。「わかった?」「だったら早く下ろしなさいよ!」「しかし、俺はあんたたちをレストランに連れていくと言ったんだぜ。レストランで殺されちゃあたまらんな」「何がレストランよ。平凡な普通の家ばかりじゃないの!」「まあ、作りは平凡だけど、料理はすごいんだ」「・・・・」茜は僕を睨んでいる。「つまらんかどうかは食べてからにしてもらいたいな」「もしかして一つ星とか?」後ろから期待めいた声がした。「ばかねえ。そんな訳ないじゃないの」明美はその同級生を叱った。
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