(9)
当日……。午後の仕事の取り掛かったとき。
「ねえ。新規のクライアントとの打ち合わせ、今日じゃなかった?」
主任の言葉に、先輩Aがスケジュールを確認する……フリをする。
「あっ! 済みません。今日でした。不味いな。五分後には、先方と打ち合わせを始めている時間です」
「じゃあ。三人とも、急いで行って。私から、遅れる旨の電話を入れておくから」
受話器を手に取った主任の言葉を受けて、俺とふたりの先輩は会社をとび出した。レンタカー屋でワゴン車を借り、大学へ移動する。
「居たぞ。ヤツだ」
先輩Bに促され、視線をそちらに向ける。イ・ジフンが、キャンパスに突っ立って行き交う学生を眺めている。次の獲物を、物色しているのだろう。
「じゃあ。連れてくるぞ」
そう言ってワゴン車から降りた先輩Aが、キャンパスに入っていった。方法は、凄くシンプル。
「君と友達になりたい……と言う、日本の女を紹介する」
こう言うだけだ。
「そんなんで、付いてきますかねぇ?」
俺の問いに、先輩Bは笑って返す。
「大丈夫さ。韓国の男は、日本の女を犯すことしか頭に無い」
「そんな簡単にいったら、苦労は……」
……って、俺はそこで言葉を止めた。付いて来たよ。嘘だろう? 犬でさえ、餌を差し出すのが知らない人間なら警戒するぞ。唖然とする俺の表情が可笑しいのか、先輩Bは大笑いする。
イ・ジフンを連れてきた先輩Aが、ワゴン車の後部座席のドアを開けた。
「女は何処だ?」
中を覗き込み、キョロキョロするイ・ジフン。それを引っ張り込み、スタンガンを押し当てた。放心状態になったところを押さえ付け、ロープで両腕と両脚を戒める。韓国語で罵られると気分が悪くなるので、口をガムテープで塞いだ。
次にやって来たのは、繁華街のとある裏路地。韓国料理店の裏口が見える。キム・スミンは、ここでバイトをしている。先輩ふたりが、ワゴン車から降りて裏口に移動した。その五分後……。キム・スミンがやって来た。
何? この人たち……。そんな表情で通り過ぎたキム・スミンに、先輩Bがスタンガンを押し当てた。崩れるように凭れ掛かったキム・スミンを、先輩ふたりがワゴン車の後部座席に運び込んだ。同じように、両腕両脚を縛り、口をガムテープでしっかり塞いだ。
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