(34)
ふぅ……。何とか、落ち着いたぁ。やっと、服を着ることを許された俺。身繕いをして、自分のお膳を持ってマユちゃんの隣に着く。
「頑張ったね。偉いよ」
笑顔でそう言ったマユちゃんが、お銚子を差し出した。
「有難う」
嬉しそうに返した俺は、盃を手にする。しかし……。俺を挟んでマユちゃんと反対側からもお銚子が差し出され、お酌をされてしまった。えっ! まだ居たのか? 振り向くと、ロアンの呼んだデリヘル嬢が寄り添うように正座をしている。
「あのぅ。そろそろ……、お帰り頂いても」
そう訴えた俺だが、主任は意地悪な笑みを浮かべて話す。
「まだ、時間はたっぷりあるわよ」
ロアンも、続けて俺に話す。
「三時間コースでお願いしたから、慌てなくても大丈夫よ」
いや。そういうことじゃ……、なくて。
「マユのお酒、飲んでくれないの?」
ほら、ほらぁ! マユちゃんの顔が、怖くなった。
「も……、もちろん、飲むよ」
そう返した俺は、クイッと酒を飲み干した。しかし……。またも、デリヘル嬢が素早くお酌をしてしまった。あのなぁ! わんこ蕎麦じゃ無いんだから!
「あ……、あのぅ。平等に……ね」
デリヘル嬢にそう断って、酒をクイッと飲んだ俺。しかし……。またも、マユちゃんがお酌をしようとする前に、デリヘル嬢が酒を注いでしまう。
「あ~あ。マユちゃん、可哀想に」
「こりゃ、出禁、決まりだね。ブラックリストに、こいつの名前、載せていいよ」
先輩ふたりが、そう言って状況を益々悪くする。茶碗蒸しを運んできた係の女性も……。
「いい雰囲気ですねぇ」
俺を断崖から突き落とすような発言をする。何回マユちゃんに盃を差し出しても、ことごとくデリヘル嬢にお酌をされてしまう。
「もう、知らない! マユ……、帰る!」 怒ったマユちゃんが、そう言ってお座敷を出て行ってしまった。そ……、そんな!
「あ~あ。怒らせちゃった」
ロアンが、他人事のように言った。おまえのせいだぞ! おまえの……。
結局……。デリヘル嬢は、宴が終わるまで居座った。お座敷をあとにするとき、係の女性が畳に転がっている韓国女を指差して訴えた。
「お客さん。ゴミは、持ち帰って下さい」
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