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「それじゃ。あの汚い韓国女を的にして、ダーツゲームをしましょう」
主任が、そう言いながら矢を一本ずつ配る。ん? 人数分あるぞ。やけに、用意がいいな。あとから考えれば、このとき逃げ出すべきだった。先輩ふたりが、周到にも用意した縄で、汚い韓国女を逆さ吊りにする。
「賞品は、あの汚い韓国女を凌辱する権利です」
えっ! 主任のその言葉に驚いた俺は、逃げ出そうとした。しかし……、遅かった。衣類の前には、ロアンが立ち塞がっている。中東男と東南アジア男は、出入口を死守している。何より……。
「参加しないの?」
マユちゃんが、縋るような目で俺を見上げている。狼狽える俺に構わず、主任がゲームを進める。矢を投げる距離は、畳一枚を縦にした長さ。
先ずは、レディーファーストでマユちゃんから。マユちゃんの投げた矢は、途中で畳に突き刺さった。
「マユ。力無いから、届かなぁい」
わざとらしいけど、可愛いから許す。次は、ロアンだ。ロアンの矢も、途中で突き刺さった。
「あぁん。私も、力無いから届かない」
絶対に嘘だ! 次は、主任。投げた矢は、半分も飛ばずに畳に突き刺さった。
「歳のせいね。肩が上がらないわ」
普段は、歳のことを言うと目付きが怖くなるくせに! 中東男と東南アジア男の矢は、届いたが汚い韓国女から大きく逸れた。
「駄目だ。時差ボケが、まだ治っていない」
もっとマシな嘘を吐け! 先輩ふたりに至っては……。
「後輩に花を持たせないと、先輩として失格だよな」
そんなことを言って、わざと矢を外した。残るは、俺だけだ。
「ちょっと待って」
矢を投げようとする俺に、主任が待ったを掛けた。
「的が遠い……って、みんな言っているの。ここから投げて、いいわよ」
そう言って主任が示したのは、逆さ吊りにしてある汚い韓国女のすぐ目の前。距離して、三〇センチも無い。
「こんなの、あり……ですか? だったら、みんなやり直しましょう!」
そう訴えた俺だが、先輩ふたりはいけしゃあしゃあと返す。
「勝負の世界は、厳しいんだ。俺たちだけ、あまえる訳にいかない」
「そう、そう。俺たちは、潔く負けを認めたんだ」
こ……、このぉ!
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