(17)
残業からの帰り道……。ちょっと、一杯引っ掛けていこう。そう思い、繁華街を歩いていた。
「ん?」
立ち止まった俺は、周囲を見回す。誰かに見られている。会社を出てからずっと、そんな視線を感じていた。確かに……。何人もの通行人が、俺を見ている。こんなところで、立ち止まるな! そんな視線で……。しかし……。それとは違う視線、俺は感じていた。無視して、再度歩き始める。
よく立ち寄る居酒屋に入り、カウンターの席に着いた。ビールと手羽先と野菜サラダ。この三品で、俺は満足だ。いい気分になって腹も満たされ、そろそろ帰ろうとしたとき。
「はい。どうぞ」
店の主人が、俺の前に唐揚げを置いた。
「えっ! 頼んでないよ」
キョトンとした俺の言葉に、主人は指差しして返す。
「あちらのお客さんからで……」
その相手は、笑顔で手を振った。女である。その女が、酎ハイのグラスを手に、俺の隣に移動した。
「宜しくね」
フレンドリーに話し掛けてきた女に、俺は素っ気なく返す。
「友達にもクライアントにも、ベトナム人は居ない」
「あっ! 私がベトナム人……って、分かるのね?」
俺の言葉に、女はからかうように訊いてきた。
「肌の色と顔立ちで、殆ど分かるさ。何より……。アオザイを着ていれば、馬鹿でも分かる」
「コスプレ好きな違う国の人かも、知れないわよ」
「別に、構わない。韓国人の血が入ってなければ、特に気にしないさ」
「私たち、お友達になれそうね」
「断る! 日本語が達者な外国人は、信用するな。親戚から、耳にタコが出来るほど言われているんでね」
「何か、トラウマでも?」
唐揚げをひとつ食べ、そう訊いてきた女。
「従姉が、仕事で行った韓国で、韓国人に強姦されたんだ。警察に逃げ込んだら、警察官にも強姦された」
「私たち、相性が良さそうね。私の姉も、ハノイの飲み屋でバイトしていたとき、韓国人の旅行者に強姦されたのよ」
「同情はするが……。どうして、相性がどうのこうの……になるんだ?」
そう訊いたが、相手の答えを聞かずに席を立った俺。
「失礼させて貰う。韓国人に気を付けて帰れよ」
そう告げてその場を離れ、支払いを済ませて外に出た。しかし……。
「な……、なにぃ!」
遅れて出てきたその女が、俺に駆け寄って脇腹にナイフを突き付けてきた。
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