その時以降、何度か電車に乗る機会がありましたが、あのような忌まわしい出来事に遭うことはありませんでした。
そして私の体も、あの時以降、激しく欲望を求めることもなく、以前と同じになったように感じていました。
部屋の近くでバイトを始めたことで、幾分、気が紛れていたのかもしれません。
しかし、アルバイトだけでは生計を立てることも出来ず、その間も仕事を探し続けていました。
春を迎え・・・、1年前の忌まわしい時間を過ごした季節が、また巡ってきました。
これから、何年も、この季節が来るたびに、あの男達のことを思い出す・・・。そう思うと、憂鬱な気持ちになりました。
5月になり、私の希望する仕事が見つかりました。営業事務の正社員。事務とは言え、来客の相手、そしてクライアントのところにも出向き、営業マンのサポートをするような仕事でした。
履歴書を書き、書類を送付しました。
しばらくして、そこの会社から面接をしたい旨連絡があり、私はまたスーツに身を包み、面接に向かいました。
季節は、5月の終わりになっていました。
街のオフィス街の中に、その会社はありました。
1Fの受付に行くと、私より若い女性が対応をしてくれました。
(私も、こうやって受付をしていたのに・・・)
少し悔やむ気持ちを持ち、ロビーで待っていると、営業部のものと名乗る男性が案内に来てくれました。
通されたのは、営業部長室でした。男性が扉を開け、中に入るよう勧められ部屋に入ると、頭の薄くなった小太りの男性が奥の席に座っていました。
その男は大きな声で、
「おぉ、あなたが吉田さんだね」と言いながら、机の前に置かれたソファーに座るよう促してきました。
案内をしてきた男は、そのままドアを閉めて出ていきました。
営業部長と名乗るその男は、履歴書の写真を見た時から気に入ったとか、やっぱり素敵な女性だとか、採用とは関係のない話を始めてきました。
私の方から、仕事の内容や条件を教えて頂きたいと口にしたところ、やっと本題に入る気になったようでした。私も横に置いた鞄から手帳とペンを取り出し、そして前に向き直った時、部長の眼は私のスカートの裾・・・、その奥をギラギラとした眼で見ていました。
(見えてしまった・・・)
膝上のタイトスカートでソファーに座ったため、裾が少しずり上がり、更に手帳を取り出すために体を捩じったことで、恐らく、スカートの奥を覗き見られたと思います。
(こ・・・こんな男に・・・)
私は膝をつけて、手帳を太ももの上に置くと、 部長は詰まらなそうな顔をしながら、業務や条件について話を進めました。でも、その眼は、私の脚、手の動き、顔、体を舐めるかのようでした。
一通りの説明を終えると、部長はいやらしく笑みを浮かべながら、
「吉田さんは、未婚ですよね。どうして、今まで結婚しなかったの?今、男はいるの?」といった、セクハラ紛いの質問をしてきました。
「それは、採用を検討頂くのに必要なご質問なのでしょうか?」と、やんわりと質問自体を否定すると、
「採用したけど、急に結婚して、赤ちゃんが出来たから、と言って、長期に休まれたり、退職されても困るのでね」
「今のところ、その予定はありません」
「じゃぁ、今、彼氏はいないの?」
「・・・いません」
「そうかぁ。いい年頃なのに・・・、体がもたないでしょ」
「そ・・・それは、どういう意味ですか?」
「いやいや・・・、深い意味はないよ」
と言って、その男は大きな声をあげて笑いました。
その間も、部長の眼はスーツの上から、体を舐め回すかのように、見てきていました。
そして、部長宛に電話がかかって来たのを機に、面接は終わり私は一礼をして部屋を退出しました。
席を立つとき、ドアまで歩く間、そして部屋を出るまで・・・、部長の視線を辛いほどに感じていました。
(あんな、上司のいる会社・・・)
しかし、条件は中途採用の女性に対しては、十分すぎるものでした。
そして、3日後。その会社から「採用する」との連絡を受けたのでした。
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