伯母の家に着いたのは、昼少し前の時刻だった。
やはり、どこかおかしい、とすぐに感じた。
新聞や郵便物などは取り入れてあるが、玄関の外灯は点いたままになっている。
玄関扉には鍵がかかっていた。
俺は、そのまま庭の方に回ってみることにした。
伯母の家は平屋の純和風の建物で、襖で区切られたいくつかの和室を、周り廊下と奥廊下が取り囲む構造になっている。
垣根の戸をくぐり、庭に入ってみると、雨戸は開けられていて、奥の部屋に明かりが灯っているが見えた。
伯母は、家の一番奥の、通常は書斎などに使う部屋に、カーペットを敷き、ベッドを置いて、寝室として使っている。
この方が、客が急に訪れた時などは、便利なのだときいた事がある。
俺は、庭に面したガラス戸を開けようとしてみたが、やはり全ての戸に鍵がかかっていた。
仕方がないので、裏の勝手口を試してみることにした。
幸い勝手口の戸には、鍵はかけられていなかった。
引き戸を開け、中に入る。
勝手口の上がりには、汚れたスニーカーが脱ぎ捨ててあった。
(なぜかこの時、声をあげて、家の奥に呼びかけようとは思わなかった。不思議と危険は感じなかったし、何か家の中の秘密を、調べているような気分になっていた。)
そのまま、静かに靴を脱ぎ、台所に上がると、家のどこからか話し声が聞こえてくる。
なにやら嬉しそうな声で、時々笑いが混じっている。
俺は、奥の廊下を玄関に向かって進んだ。家の奥の方は、意外と涼しくてひんやりとしていた。
どうやら、話し声は、伯母の寝室の方から聞こえてくるらしい。
そのまま音をたてないように注意しながら、寝室の隣の部屋の障子戸をそっと開け、その中へ忍び込む。
やはり話し声は、隣の部屋から聞こえてくる。
この時、物凄くドキドキと、胸が高鳴ったのを憶えている。
俺は、隣の部屋との境に躙り寄ると、目立たぬように、部屋の隅の襖戸をそっと数センチ引き開いた。
恐る恐る中を覗き込んでみると、丁度誰かが部屋から出て行くところだった。
周り廊下の側の障子戸が、閉まるのが見える。
その部屋の中は、とても明るかった。
俺が覗いている位置からは、直接ベッドの上を見ることはできなかったが、気配でその上に誰かがいることがわかる。
部屋の隅に置かれた机の上には、汚れた皿やコップなど、使い終わった食器類が山積みになっている。
また、ベッドのすぐ脇の足側には、大きな三脚が設えられていて、今のものとは違う大型のビデオカメラがベッドの上を狙っていた。
何かムッとする匂いが、襖の隙間から漂ってくる。
覗き始めてすぐに、隣の部屋に人が戻ってきた。
表側の障子戸を開け、部屋に入ってきたのは、俺よりも少し年上に見える高校生ぐらいの少年だった。
上半身裸で、手には大きめのコップを二つ持っている。
その時、ベッドの上で何かが動いた。
黒く光りながら波打っているそれは、丸まった人間の背中のように見える。
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