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凶器なんかなくたって、力の弱い女性の首を絞めることぐらいはできるだろう。
「脚が邪魔だな」
男の眼力に気圧(けお)され、私はゆっくりと脚を開いていった。一秒だってこんなことはしたくない。
「ようやく花が咲いたな。濡れているのは蜜のせいか。気が早いな」
朝丘という男は、勝ち誇った顔で低く笑った。視線をじっと私の股間に注ぎ、瞬きさえしていないように見えた。
直後、視界が陰るのと同時に、肌着越しの乳房にピンクローターの振動がやってきて、陰部の入り口に男性器を感じた。
「い……んあっ……ううん……」
全身から火花が散っているみたいだった。しかし挿入はまだない。気色悪いペニスの頭を上下に滑らせ、それぞれの分泌液でもって音を鳴らし、しつこいほどの愛撫で私を責める。
「こいつも邪魔だな」
朝丘は私から肌着を剥ぎ取り、現れた乳房に目を剥いた。
「いい匂いしてるぜ、まったく。皮膚は白いのに、乳首が赤く起ってるじゃないか。まさか、興奮してるな?」
私は首を振って否定した。
彼は野良犬のように舌を垂らし、私の乳房を舐めた。
「……や……ん」
全身に鳥肌が立つ。そしてピンクローターで乳首をもてあそばれる。
「ひくう……んんん」
寒さからではない体の震えが、ぞくぞくと止むことなく続く。
私はクリトリスが弱い。乳首だっておなじくらい感じやすい。その両方に溜まった欲求不満を見透かすように、望まない愛撫で溶かされていく肌。
「僕のものでクリトリスを撫でられるのはどんな気分だ。最高か?最低か?」
もちろん私は答えない。
「体が震えてるじゃないか。なるほど君は、そういう体質なんだな」
徹底して乳首に甘い刺激をあたえ、性具に性具を重ね合わせて上下に撫でてくる。
私は膣に力を込め、なんとか体液が外へ溢れ出ないようにしていた。しかしトイレを我慢するみたいにはうまくいかない。
きっと粘り気のある結露がそこに浮き出て、あられもなく滴っているに違いなかった。そうじゃないと、こんなにも背すじがくすぐったくなる説明がつかない。
「あん嫌あ……んっんっ……嫌っあっ……やめて……んく」
「嫌がってるふうには見えないな、ええ?このたっぷりの汁はどうした。僕を誘っているのか?」
「ち……違……ふうん……もう嫌だ……嫌あ」
ほら、どうした、いつでも入れてやるぞ、と彼は腰を振るたびに熱い息を吹きかけてくる。
レイプする者と、される者、二つの体が発熱している。
私はただ、手で影絵の狐をつくるみたいに指を立て、顎を振り、朝丘拓実という人物が繰り出す行為に堪えるしかなかった。
ハーブを摂取していてもしていなくても、おそらく私は陰部を濡らしていただろう。体は不機嫌になるばかりだ。
「別の道具も試してみるか」
彼はピンクローターを手放して、違う玩具と交換した。それはロリポップキャンディの形をしていて、ファンシーショップに置いてあっても違和感のない雑貨に見えた。朝丘はそれを私のクリトリスにあてがう。
「あっ!」
下半身に冬の嵐が吹き荒れた。
「あっ、あっ、ああ、あっふん、んあんやんいや、あっ」
そこに稲妻が走ると、性的なストレスが一気に噴火した。
「嫌……」
「『愛液お漏らしの刑』だ」
びゅびゅっと膣から水が飛び散る。
「真面目そうな顔してるくせに、一人前に潮を吹くんだな」
「ああん……あなたが……ん、そんな……こと……するから」
「僕のせいにするのか。まったく困った子だ」
やれやれという感じで彼は肩をすくめ、玩具の大きな球体部分を私の中に挿入してきた。
ちゅぷっ──と音がした。
「いあっ!」
キャンディが私の中で震えている。
「切ってえ、ああっ、お願いい、だめ、だめ、切ってえ」
スイッチを切ってと言いたいのに、感情の圧力に負かされてそれができない。
割れた陰唇が合わさらないように、遠慮のないスピードで異物がでたり入ったり、震えながら回転したりしている。その様子は見えなくても、凌辱のひとつひとつを私は感じる。
「もうやめ……やめ……やめて……」
「まだ逝くなよ、まだ、僕が合図するまで、逝かさない、逝くな」
私たちは何度も体勢を変えた。上かと思えば下に敷かれ、口にペニス、膣にキャンディ、乳首にピンクローター、あとは何だろう、唾液、愛液、汗の粒、性の侮辱、意識の朦朧、言葉による婦女暴行──。
助けは来ない。だから私は諦めた。
外の暗闇では、眠らない夜光虫たちの求愛行動が果てしなく、そして下らなく続いていることだろう。
女性が安心して一人で歩ける場所なんてどこにもない。あるのは精子という名のウイルスに感染した卵子と、それを救済する医療だけだ。
「ちょっとは落ち着いたようだな」
気がつくと私は男の腕の中にいた。
「きゃ……」
咄嗟に彼の胸を突き飛ばす。
「乱暴だな」
「やめてよ……」
「何がだ?」
「あたしを犯しに来たくせに、優しくしないで……」
「待てよ。僕が君を無理矢理抱きしめたとでも思ってるのか?」
「違うの?」
私の確信がぐらつく。
「君が勝手に気絶して、僕のほうへ倒れ込んできたんじゃないか。君は僕の腕の中でずっと痙攣していたんだぜ」
朝丘の言葉が意味するもの、それは私が絶頂して気を失ったという事実だった。
私は赤面した。そして私たち二人は全裸のままベッドを温めていた。
「君は逝かない女だと聞いていたから、正直ほっとしたよ」
「……なにそれ?」
私は彼の裸を見つめたまま言った。引き締まった胸の筋肉を上下させ、今まさに核心に触れる言葉を吐き出そうとしているのがわかった。
「ビートルズは好きになったかい?」
それを聞いた私はいくつかのことを連想した。そしてある一人の男性の人物像が浮かび上がり、それが誰であるかを思い出した。
「……朝丘って、……まさかそういうこと?」
「君が昔付き合っていた男の名前は、朝丘光司(あさおかこうじ)だったよな。それは僕の兄貴だよ」
「ひょっとして、その頃からあたしのことを?」
「話せば長くなる」
朝丘拓実は私の太ももを撫でた。そこから肌をしごきながら下腹部まで移動し、中指を私の膣に通した。
「……はあっ」
絶妙な加減で中を掻きまわされる。
くちゅくちゅ、ぐちょ、ぬちゃぬちゃ、ぴちゃんぴちゃん──と私は彼を受け入れる。背後から羽交い締めにされるかたちで、私の体は汁気にまみれていった。
「……もう……だめっ……た……ら……だ……め……う……う」
「すごいよ君は。いやらしい蜜がこんなに溢れて、僕の指までどろどろだ」
皺になったベッドシーツに、私の体液が染み込んで汚れていく。私は手足を折りたたみ、オーガズムを果たして、また手足をだらりと伸ばした。緊張の解けた筋肉が痙攣していた。
「さっき逝ったばかりなのに、もう逝ったのか?」
「……」
「言うんだ」
「……逝った……かも」
「いいぞ。だんだん利口になってきたな」
そう言って朝丘拓実はまた私の膣に興味を示す。彼は変な形の器具を手に、それを私の膣口にあてがった。金属の冷たさに私は身震いした。
「こういう危ない道具を好む男だっている。産婦人科で使う医療器具だ。これで穴を広げて子宮を診るわけだよ」
「……お願いだから、……痛いのはやめて」
「痛いわけないじゃないか。きっと気持ち良くなるさ」
滑らかに尖った器具の先が、私の体内に埋まっていくのがわかる。中を押し広げ、それはあっという間に膣を満たした。
*
つづく
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