【4】
今日は、午後からまた窓清掃の予定だった。普通のフロアの窓は、半年に1度程度の清掃らしいのだが、やはりロビーの窓となれば、1~2ヶ月に1度程度の清掃が行われていた。
(また、汚れた清掃の人が来るんだ・・・。そんなに汚れていないから、頻繁に来なくて良いのに・・・)
私は、午前中から憂鬱になった。うちの会社にはいつも夕方にやってくるから、前作業の関係からか時間は余り決まったものではなかった。
(どうせなら、私が帰ってからやってくれないかしら・・・)
何時に来るのか解からないのを待つことは、更に苛立ちを積もらせた。
夕方の4時前になって、いつものように帽子、マスクを付けた男が守衛と一緒にやってきた。
「じゃぁ、頼みますよ」
守衛は清掃の男に声をかけると、裏口の守衛室に戻っていった。
(なんで、清掃員は帽子にマスクで完全防備なの?こっちも埃を被ったりするんだから・・・)
カウンターから少し離れた場所で、男が梯子を伸ばし始めた。
「時間、もう少し遅くとかって、出来ないんですかね」
男に声をかけてみた。しかし、男は聞こえないのか、淡々と作業の準備を始めいている。
(聞こえてないのかしら・・・)
普段やってくる小柄な男は、マスクと帽子の間から弱々しい視線を合わせることなくがなかった。
私は少し苛立ち・・・
「そっちは、早く終わって良いかもしれませんけど、埃を浴びるこっちの身にもなって欲しいですね」
先程より声を大きくした。しかし、男は梯子を昇って行き、手際よく窓を磨き始めた。
(なんなの?あの態度は・・・。客はこっちなのよ!それとも、口が付いてないの?)
私の苛立ちは、更に高まった。
「今日もブラインド、掃除したほうが良いんですか?」
不意に男が声を発した。
(はぁ・・・?しゃべれるんじゃない)
「自分で判断して、やって下さい。その代わり、やるのなら埃は落とさないようにお願いします!」
梯子の上から見下ろしてきたその男の視線は、いつもの男の視線とは異なり、鋭いものだった。
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(絶対に、許さねぇ)
俺は、見下された言い方に、その場で文句を言いそうになった。しかし今は、使われている身。言い返すと、何の利点もない。
しようがなく、ゆっくりとブラインドを下ろし、埃を巻き散らかさないように、丁寧に拭き取った。 そして一通りの作業を終えると、片づけをしながら、女を見た。
(清純そうな顔して、気は強いのか?それとも、単に俺を見下しているだけなのか?)
女はこちらを見向きもせずに、受付に座り何か書類の整理をしていた。
(あんな顔して、彼氏のものを咥えたり、突っ込まれてヒィヒィ言ってるんだろうか・・・。そのうちに、俺がそうしてやるよ)
俺は片付けを終えると、受付に近づいていった。女は、俺を無視するように、下を向いたまま書類を見ていた。
「作業、終わりましたので、引き上げます」
「・・・」
女は椅子を廻し、俺に背を向けた。
「失礼します」
後ろから見る女の襟足を目に、そして椅子を廻した時に微かに香った女の匂いを記憶に焼付け、俺はその場から立ち去った。
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(ど・・・どうして、あの男は近づいてきたの?)
近づいてくる男を視線の片隅で感じたとき、その眼光の強さに恐怖を感じた。
帽子にマスク。男の表情を伺えるものは、その「眼」しかなかった。
いつもの作業員とは異なり、老年のシワはなく、幾分若い男であることも感じていた。
言葉、そしてその場の関係では、真由美が優位に立っていたが、その眼は一気に二人の立場を逆転させ、真由美に恐怖を植付けた。真由美の鼓動は一気に高まり、それを知られることが不安で、男に背を向けてしまった。
しかし、真由美の鼓動の高まりは、その恐怖だけではなかった。
その日の夜、真由美はベッドの上で、また秘部に指を這わせた。
(やめて・・・、お願い・・・、許して・・・)
眼を瞑ると、あの男の目が浮かんできた。
(だめ・・・、犯さないで・・・、い・・・いやぁ・・・)
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