【14】
あの日、俺は公衆便所から出ると、便所の脇に身を隠し女が出てくるのを待った。
俺が出てから15分ほどすると、気だるそうに女が便所から出てきた。
服装はそれなりに整えられているようで、女は公園を出ると、来た道を戻っていった。
俺は、女の出てきた便所に入ると、手洗い、個室を見渡した。
(何も残さずに帰ったのか・・・)
破られたパンストくらいは、脱ぎ捨てて帰ったと思ったが、履いたままなのか、持ち帰ったのか、便所の中には残されていなかった。
俺は、周囲を窺いながら便所を出ると、女の後を追った。
公園を出ると、100mほど先を歩く女の後ろ姿が見えた。
さっきほど近付かず、しかし見失わないように女の後をつけた。女はコンビニまで戻ると、駅とは反対の方向に進んだ。そして、しばらく歩いた後、マンションのエントランスに入っていった。
道路からエントランスを覗くと、オートロックを解除し、エレベーターホールに消える女の姿があった。
(あの部屋なのか?)
しばらくして3Fの一室に明かりが灯ったことを見届けて、俺は駅に向かった。
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あれから1ヶ月。私の身には何も起こらず、無事に生理を迎えました。ホッとしたのが、正直な気持ちでした。異常な状況の中とはいえ、中に求めたのは私自身。だからといって、身篭ることは望まないことでした。
しかし、あの日以来、私の体はあの“眼”を求めてしまっていました。あの男の言った「また・・・」という言葉。その言葉を思い出しては、自分で慰める夜を過ごしました。
窓清掃のときも、同じ“眼”をした男は現れず、いつもの老年前の男が淡々と清掃を行い帰っていきました。
そんな中一度だけ・・・、体が堪えきれず、食事に誘ってきた社員に、抱かれました。でも、やはり違いました。
私は学生の頃から、周囲から真面目で清楚なイメージを持たれてきました。私自身もそうあるべき、そうありたいと思っていました。あの“眼”に気付かされるまでは・・・。
その社員も、そういう清楚で真面目な私に好意を持って近づいて来たので、その夜に抱けることすら驚きを表していました。そんな相手が、私を激しく抱くことはありませんでした。抱かれている間も、『もっと激しく・・・』と思ったのですが、ダメでした。私の体は、優しいSEXを求めてはいませんでした。
その社員とは、それっきり。酷いことをしました。そのことを逆恨みして、私を襲わないか・・・。そんな期待をしつつも、やはり実際にあの“眼”を求めていましたが、次第に現れた時の恐怖、そして、また襲われるのではないかという恐怖も、私を大きく支配していました。
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俺の望みは、あの女を犯せば良い、というものではなかった。
初めてみたときのあの制服姿の女。その女に辱めを受けさせて、そして犯すこと。清楚な雰囲気を醸し出しながらも、隙の無い態度。そして、自分より下と判断した相手を見下すような気の強さ。
しかし、面の皮を剥いでみると、淫乱なM女。
俺はあの日以来、以前と同じようにしばらく女の前には姿を見せないようにした。しかし、少し離れた場所から女の監視は続けた。
(必ず、あの女は欲望を抑えられなくなる・・・)
確証のないものだったが、なぜか俺には自信があった。今までに、レイプの経験はあの1度だけだったが、痴漢の経験はあった。女性の多くは、痴漢を嫌うのが当然だが、何人かに一人は、拒否をしながらも、最後には堕ちてしまい、しかも、翌日も乗車する位置を変えない女がいることを知っていた。そういう女は「自分が痴漢されている」というシチュエーションを楽しんでいるのだと、勝手に考えていた。拒否をしながらも、見知らぬ男に屈してしまい、最後には快楽を与えられてしまう自分に酔う女。
(あの女も、そうであれば良いのだが・・・)
女がそれを望み、それを待っているのであれば、こちらの望むシチュエーションで楽しませてもらう・・・。
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街に秋の涼しさが漂い始めて来ました。
その頃には私の中にも、『もうあの男は現れない』
そんな、諦めに似た、しかしどこかホッとした気持ちが支配し始めていました。
(あの日の私は、どうかしてたんだ・・・)
でも、自分の体を慰める時には、瞼の裏にはやはりあの“眼”が現れて来ました。
想像だけの相手・・・。私は、それを楽しんでいました。それは、最も安全に自分が犯されること・・・。
そんな中、会社の創立記念日が近づいてきました。その日は、社員は休み。しかし、受付は急な来客に備えて出勤するのが、決まりになっていました。
(創立記念日に来社する人なんて、いないのに・・・)
仕事に追われる一部の社員を除けば、自分だけが出勤することにいつも不満を覚えていましたが、来客も社員もいない静かな時間を過ごせるので、少し得した気分にもなれる日でした。
(今年は、どの本を読もうかな・・・)
会社の帰りに書店に寄り、静かな受付で読む本を選び、その日を待ちました。
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