何度も反芻した
腰を動かすたびに上がる声
部屋中に充満した匂い
下半身からたつ音
絡みつくような感触
いつもと同じはずの事務所は、まるで別世界だった。
歩いていても、パソコンの前に座っても、意識の殆どはそこにあった。
ふと視界の中に、女上司が写るたびに、心臓を締め付けられるような感覚に陥った。
それは、いつもの苦手な異性に対するそれではなく、もっと薄汚く濁った、ドロドロとした感情だった。
いつの間にか周りに人がいなくなっていた。
時計を見ると昼を指していた。
かばっとパソコンに身を乗り出す。
社内LANの画面には、その場所の予定は空白になっていた。
席をたつ。
目的地に向かい、ゆっくり歩き始める。
目は、自分でもわかるくらい強ばり睨むようになっている。
暑くないのに、興奮から静かに汗ばむ。
廊下を歩き、エレベーターを呼び、最上階に並ぶ扉のなかに入る。
それは、記憶の通りの形をしていた。
あの場所に似た広さ。
壁は白く、床の色まで同じ。
邪魔な机は一番奥の壁際に押しやり重ねた。
テレビモニターを、その台と一緒に、扉を入って左手の壁際に少し斜めにして設置した。
テーブルの上の花瓶や、誰かがいつかの会議で持っていたのだろう紙袋は積んだ机の上に並べた。
プロジェクター用のスクリーンは、スタンドごとテレビモニターの横に置く。
無関係な人から見れば、ただ乱れて散乱しただけの部屋。
あの部屋を知る者にだけわかる配置。
ダメ社員は……脂ぎったメタボデブの醜い男は、一番奥に積んだ机の上から、茶色い紙袋を取り出す。
真ん中に、片側にだけ、小さな穴を開ける。
唇の大きさに近い穴を開けた紙袋を、床の中央に落としたあと…込み上げる濁った感情に笑った。
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