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_このところ出番の多くなった「ディープ」には感情こそないが、小田や黒城の良きパートナーとして、ときにはセックス以上の快感をあたえてくれる存在だ。
_だからこそこの検索作業は自慰行為にも等しい。
「現場に残されていた体液の鑑定結果から、自称フリーターの数馬良久(かずまよしひさ)が容疑者として浮かび上がった、25歳。しかし取り調べに対して容疑を否認し、被害者の徳寺麻美との接点もなければ、行方不明の植原咲とも接点なし──ということは、いよいよ平家先生が疑わしくなってくるな」
_小田の横で缶ビールをやりながら冷静な目を向けて黒城が言った。
「彼女たちのほかに、教授の研究チームの誰かが何かの事件に遭っていたとしたらだ、そこをつつけば何か出るだろうけど」
「出るさ。俺らを勃起させて、射精させてくれるくらいのネタがな」
_これはもともと花織から依頼された事だから、多少そこに自分の嗜好が介入しているとしても、花織が納得いく結果にまでたどり着きたい。
_マウスを操る小田の指先にはそんな思いが込められていて、いつしかそれは女を愛撫するときの動きとダブりはじめる。
_そして、違法な無修正動画や出会い系チャットの安全性をうたったバナーには目もくれず、検索にヒットしたブログサイトにアクセスしてみた。
_それはマニアのあいだではかなり知名度の高いサイトらしく、「人妻」「30代」「露出」などといったカテゴリーで絞っていけば、自分好みのブロガーにヒットする仕組みになっている。
_しかも「出会える」ブログサイトとうたっているだけあって、たとえばSMで言うところの「調教師」や「性奴隷」を募れば、かなりの高い確率で好みの相手と交渉できるというのが最大の魅力でもある。
_会員登録には基本的に実名や住所などの個人情報が必須となっている為、たとえハンドルネームでブログを投稿していたとしても「徳寺麻美」などの個人名で検索すれば、「ディープ」によって様々なフィルタリング機能を無効にさせられ、確実にターゲットを特定できてしまうのだ。
「麻美ちゃんは出会い目的でこのサイトに登録して、容疑者の数馬良久、あるいは彼以外の誰かと出会い、強姦されてしまったという訳か」
「で、これが徳寺麻美のブログだ」
_小田が示した画面に表れたのは、ピンクを基調としたスイーツカラーでデコレーションされたブログページだった。
_最終更新日は、レイプされる一週間ほど前のようだ。
「フォトブックの中に、彼女の顔出しの画像があればいいんだがな」
「いまさら女の裸を見ながらシコってもさ、虚しいだけだよ」
「黒城でも学習するんだな?」
「こう見えて不感症だからさ」
「初耳だな」
「致命的だよ」
_黒城は白い歯並びを見せて笑いながら、右手でマウスを滑らせてフォトブックをたたいた。
_読み込み中の数秒がやけに長く感じられ、二人は思わず生唾を飲み込んだ。
_その視線の先の画面が一瞬暗くなって、サムネイルがフェイドインされる。
「これって結構ヤバいシチュエーションがあったりするんじゃねえの?」
「おい、女の裸は見飽きたんじゃなかったっけ?」
「不感症には薬が必要なもんで」
_サムネイルで確認できる範囲だけでも、その肌色の面積から想像すれば、露出はかなり多いだろう。
_黒城は缶ビールの飲み口に歯をたてて、無作為に画像の一つを拡大させた。
「っと、麻美ちゃんてなかなか、いや、かなり可愛いかも」
「おまえそれ、顔出てないぜ」
「小田にはわからんだろうな、20歳の等身大の色気と品格ってやつがさ」
_拡大された画像には一人の女の子が写っていて、姿見の鏡の前で私服姿を携帯電話で撮ったアングルになっている。
_肝心の顔の部分は携帯電話で隠れていて確認できないが、どうやらここに写っている人物が徳寺麻美に間違いなさそうだ。
_また別の画像ではベッドの上でランジェリー姿になってみたり、女の子らしくネイルのアップだったり、それだけで画像からアロマオイルの良い匂いが漂ってくるような感覚に酔いはじめる。
_そしてついに、着衣は姿を消し、ありのままの彼女の肌色を写し出してしまうのだ。
_柔らかい脂肪をはじけさせる胸の大きな膨らみと、たるみのない豊かなヒップラインから伸びる細い脚線。
_彼女のナマの姿にはまるで無駄がない。
「これだけ良い体してるんなら、彼氏とかいなかったのかな?」
「どうだろうな。いたとしてもだ、その彼氏と仲間に強姦された可能性だってあるし。けど、この画像を見るかぎりじゃ同情できないな。これじゃあまるで『狩ってください』って誘っているみたいだ」
_クリックの音が頭の奥で飛び跳ねるたびに、淫らに満ちた彼女の行為がエスカレートしていくのを期待せずにはいられない。
_白い乳房を両手で支えながら、谷間にバイブレーターを挟んだもの。
_使用済みの生々しいキュウリと充血した局部の接写。
_性器の穴から何本ものローターのコードを垂らしたもの。
_愛液をまとった細長い指を舌で受けとめ、あやしい糸を引くもの。
_それに、人の手首ほどもありそうな太さを見せるディルドにまたがり、膣を拡張させて背中をしならせる彼女。
_パートナーが写りこんでいないところを見ると、今のところ自慰の範囲を越えたものはなさそうだ。
_しかしながら彼女の性癖の偏りはどの画像にもあらわれているし、どれもすべて無修正だ。
_思わず、目の前の景色に蜘蛛の巣状の亀裂がはしって、音もなく割れていくような幻覚におそわれたのは……黒城の方だった。
_男の性欲を満たすはずのいやらしい画像がグニャリと形を歪ませて、彼の頭を痛めた。
「おい、大丈夫か?顔色わるいぞ」
「ち……ちょっと酔いがまわっただけだ。帰って寝れば……治るさ」
_飲みかけの缶ビールをデスクに残したままの黒城は、眉間に深い皺(しわ)をつくって立ち上がり、具合のわるい足取りで小田のアパートを出て行く。
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