11
「いい選択だ。脚をひらいて、それをこちらに見せてごらん」
男の指示通りに優子の脚がアルファベットのMのかたちにひらく。
愛液が泡立って恥毛を光らせている。
大陰唇はこんもりと左右に広がり、その内側には蛇の舌のように割れた小陰唇、真ん中で大げさに濡れている膣口、いつまでも体温調節ができないでいるクリトリスは紅く腫れている。
優子が選択したものが、男の左手から優子の秘部に向けられる。
異物の気配がミリ単位で近づいてくるのがわかる。
その時、冷たい金属の肌触りが膣口を撫でた。
「んんっ、ああんっ」
わけのわからないものを押し当てられて、アナルとヴァギナが同時に収縮した。
それは割れ目どおりに縦に往復してから、これもまたミリ単位で粘膜の壁をひろげながら入ってくる。
どんどん膣を掘る。
そして行き止まりだ。
私のお腹を圧迫しているこれは何なのか、優子がその解答を導き出そうとしていた時、不意に膣の奥がふくれたような気がした。
いや、そんな気がしたのではなく、ほんとうに膨らんでいる。
子宮のすぐ下あたりだ。
「私に何をしたの?」
「とてもいい眺めだよ。望みどおりにクスコを挿入してあげたんだよ」
「……?……クスコ?」
「膣鏡という医療器具だ。女性器の中まで見えてしまう、マニアにとっては三種の神器のひとつと言えるだろうな」
そこまで言うと男はまたクスコを操って、優子の膣を一気に拡張させた。
「はああああ……いやああ……」
銀色の嘴(くちばし)が最大までひろがって、生肉色の膣の奥に影のかかった子宮口が見えた。
中に溜まっている液体は愛液だろう。
開ききった穴の中に男は人差し指を忍ばせ、その液体を拭いとった。
「んっ!」
優子の腰が浮き上がる。
産婦人科医の触診を真似てすくった分泌液を、男は自分の鼻面に近づけてその匂いを嗅ぎ、舐めた。
若い液は酸味がつよかった。
優子にしてみれば、これから自分がどんな目に遭うのかを想像しながら、惨めで、せつなくて、淫らな行為を期待していた。
優子の耳のそばでローターの振動音が空気をふるわせていた。
その音はしだいに二つ、三つ、四つと重なっていって、優子の股間の方へ移動した。
膣が身構える。
そしてローターはクスコに着地した。
ヴルルルル……、ガガガカカカン……、ヴルルルルルル……。
クスコがローターをはじく。
「んんうううあああ……あっあっあっ……」
アイマスクの下の唇が歪む。
次にローターはクスコを通り抜けて、穴の中を暴れまわる。
さらにローターを追加する。
もうひとつ、もうひとつ。
「あいいい……だめえ……むりいい……あああああ……」
卵同士がぶつかり、クスコとぶつかり、子宮口とぶつかる。ぎゅうぎゅう詰めの隙間から透明な潮が飛び散る。
「あっ!」とひときわ声を高めたあと、優子の体ははげしく痙攣した。
調教台にしているパイプ椅子がガタガタと鳴り、唇をふるわせている優子も歯をカタカタと鳴らす。
と思った直後、すぐに顎を上げてまた悩ましく泣きはじめた。
「あああっ、ああっ、いいやあああ……」
絶頂が過ぎたところに次の絶頂が押し寄せてくる。
「こわい……あああ……いくいくいくう……いっ……くっ……」
感情を持たない器具で膣を犯されて、優子のまわりはそこだけ水が溜まっている。
あとはこのまま気絶するまでイキつづければいい。
そこで最後の仕上げをすれば「狩り」は終わる。
男は自らの性器を優子に交わらせようとはせず、彼女が気絶していく様をただ眺めているだけだった。
女子大生連続強姦魔の目の前で、また一人の「魔女」がその美しい肉体を媚薬漬けにされていった。
きっと見つけてくれるさ、最後の魔女が。
男の口に笑みが浮かぶ。
*
小田から直接電話が来るときは、何かやらかそうと企んでいるときと決まっていると、黒城和哉は小田佑介からの着信のコールを聞いた時点でまたもやピンときた。
簡単な用件を話して電話はすぐに切れた。
相変わらずさっぱりしたやりとりだった。
小田が指定してきた喫茶店までは徒歩で15分ほどだ。
そこかしこの店はすでにシャッターを下ろしているから、夜道の暗がりが景色全体に濃くひろがっている。
黒城が到着すると、店内のいちばん隅っこのテーブルに小田が着席していて、右手を上げて合図を送る。
黒城は口元だけで笑ってみせて、小田の向かいに座った。
「コーヒーは注文しておいた」
「わるいな」
「さっそくなんだけどさ、ようやく例の連続強姦事件が解決しそうなんだ」
「さすがだな。でも、もうすでに三人も被害者が出てるんだぜ」
「ああ、それは俺としても悔いが残るし、彼女たちには悪いと思ってる」
「悪いのは犯人だし、警察の手際も悪い」
「そうだな。けどまあ、優子と花織だけでも無事ならそれでいいとも思ってる」
テーブルにコーヒーが運ばれてきたから、いったん話が中断した。
あらためて店内を見まわしてみると、客の姿は少なかった。
「で?犯人は誰なんだ?」
黒城の目が鋭くうごいた。
「やっぱりいちばん怪しいのは、平家先生だ」
「だろうな。あの教授は女子からの人気はあるけど、その分敵も多い。あの歳で結婚できないってことは、やっぱり変な性癖とか持ってんだよ」
「平家先生の研究チームの学生ばかりが被害者になってるし、あの二つのアダルトサイトにだって絡んでいるかも知れない」
「ブログと画像投稿型SNSだな?自分が可愛がっている学生を見つけて、アダルトサイトに画像を投稿していることを親にバラすとかなんとか脅して、それから自分のやりたいように犯す。最低だな」
黒城はそう言ってコーヒーを一口すすると、苦い表情を見せた。
小田もつられてコーヒーをあおったが、何の味もしないといったふうな真剣な顔で、こう言った。
「違う」
黒城は二口目をすする動作を止めた。
「なにが違うんだ?」
「さっき黒城が言ったように、俺もずいぶん最近までは平家先生を疑っていたよ」
「おまえさっき自分で、平家先生がいちばん怪しいって言ったじゃん」
「怪しい、けど犯人じゃない」
「どういうことだ?」
飲む気がないのに黒城はコーヒーを飲むフリをして、不機嫌そうにカップをテーブルに置いた。
「じつは俺、疑わしい人物から疑わしくない人物まで、色んな人の情報を『ディープ』で検索しなおしたんだ」
「それで?」
「それでだ、優子や花織のことを調べてみたら、やっぱり出てきたんだ、アレが……」
小田の言った意味を黒城は察知した。
「アダルトサイトか……」
「ああ、強姦犯に狙われているかも知れないとわかった時点で予想はしていたけど、まさかあの二人も『魔女』だったとはな」
「プライベートなことは誰にもわからないものさ」
小田は一瞬言葉を飲む仕草をして、言った。
「花織の部屋にあったんだ……、ローターが……」
「そうか。たぶん優子の部屋にもおなじ物が……」
「でもさあ、彼女たち五人が最初からそんな性癖を持っていたとは思えないんだ。これは俺の勘だけど、何かのきっかけがあったはずなんだ」
「それってまさか、媚薬のことか?」
小田は頷いた。
「しかもそれはおそらく『デリシャス・フィア』だと思う」
「アレは素人には危険な薬だぜ。使い方を間違えば、脱水症状だけじゃ済まない場合もある」
「被害者三人ともが脱水症状を訴える書き込みをブログにしてるんだ。それから花織も最近すぐに喉が渇くって、いつも水筒を携帯してる。気づいていたか?」
黒城は黙って俯いた。
そして重たそうに頭を上げて言った。
「それにしてもそんな危ない媚薬、どうやって手に入れたんだ?」
「そこなんだけどさ、彼女たちは媚薬だとわかっていて媚薬を手に入れたわけじゃないんだと思う」
「フェイクか」
「あまり自信はないけど遠くはないはずだ。つまり、通販サイトでダイエットサプリだとかうたった商品を彼女たちに買わせておいて、でもじつは中身はサプリメントじゃなくて媚薬だった。何も知らない彼女たちは疑いもなくそれを飲んで、いつの間にかその媚薬に依存しはじめる。そうなったらもう犯人の思うつぼだ。体は性欲でおかしくなるし、犯人に服従しないと新たな媚薬は手に入らない。負のスパイラルからは絶対に抜け出せないわけだ」
それはあるかもな、と黒城は感心した。
※元投稿はこちら >>