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_裏モノ検索サイト「ディープ」のフィルターを通して、徳寺麻美に次いで植原咲と美山砂羽のアダルトブログも見つかり、その内容はやはり自らの性癖を無修正のまま肉食男子の目にさらす行為に及ぶものばかり。
_第一の強姦事件の被害者である美山砂羽の裏の顔は、根太い男性器を口いっぱいに頬張りながらひざまずき、下腹の割れ目には別の男性の仕置きを受け入れている。
_淫らに肉が裂け、そこから女の脂を絞り出し、玩具とペニスで体中の穴を塞がれた19歳の私生活を赤裸々に露出している。
「なんか、すごいね」
_同性の体を隅々まで見ることなど、レズビアンでもなければ巡り会えないだろうと思いながら、花織は率直な気持ちを言葉にした。
「こういうの苦手なら見なくてもいいんだぞ?」
_それでも花織は何度もまばたきを繰り返して、美山砂羽の濡れ場を目に焼きつけている。
興味がないわけじゃない。
_言葉にしなくても、花織の表情からはそんな好奇心が読みとれた。
_今となりにいる花織にも、彼女とおなじように卑猥な膣口がネバネバと開いていて、桃をぶら下げたようなみずみずしい乳房が育っているのだろうか。
_息がかかる距離で、精子を持った者と卵子を持った者が、それぞれの色目でおなじ画像を見ているのだから、ベクトルもおなじ方向を向いているはずだと小田は考えていた。
「次は、第二の強姦事件の被害者、徳寺麻美のブログだ」
_小田の言葉に花織が頷くと、画面が慌ただしくスキップして、あっという間に目的の座標を映し出した。
_前回、小田に呼び出されたバーで優子と一緒に見たものは、徳寺麻美のブログの一部をコピーした生々しい文面だけだった。
_それが今、変態的な自慰行為を実行したことを裏付ける画像として、花織の目を犯していた。
「画像の中に何らかの手掛かりがあるかも知れないから、何か気づいたら教えてくれ」
「うん……」
_頼りない声で花織は返事をして、「ごめん、私ちょっとアレだから、トイレ……」と隣の寝室にしている部屋に消えたあと、ふたたび戻って来て小田の横をすり抜けトイレに入った。
_気を遣った小田は、見るつもりもないテレビをつけてボリュームを少し大きめに上げ、空になった二つのマグカップにインスタントコーヒーを作りなおした。
_パソコンワークとは違って、こちらはなかなか手際が悪い。
_あちこちに散らかしたコーヒーの粉を片付けようと、とりあえず布巾が入っていそうな引き出しを漁ってみた。
_花織がトイレから戻るまでにはと、少々焦りながらさぐっていた小田は、一つの引き出しの奥に布巾の束があるのを見つけ、ごっそりと取り出してみた。
「ん?これは何だ?」
_小田の視線が引き出しのさらに奥の方へと潜る。
_そこには細いコードが収納されていて、その一部は布巾に絡まってこちらに顔をのぞかせていた。
_収納というよりは、隠してあるといった感じだ。
_妙に気を引かれるそれをたぐってみて、小田は後悔した。
_コードの先にはピンク色で卵形のプラスチックカプセルのような物が付いていて、反対側はそれを操作するコントローラーへと繋がっている。
_まさかとは思いつつも試しにスイッチを入れてみると、ピンクのカプセルが小刻みに振動して小田の手指にまで伝わってきた。
あの真面目な花織がローターを持っていたなんて、しかも動くということはこれを使っていつも独りで……。
_彼女の秘密を知ってしまった衝撃は、小田の体のどこをどんなふうに走り抜けていったのか、コーヒーカップにお湯を注ぐのも忘れて立ち尽くす。
_その時、何度目かのトイレを水洗する音が聞こえて、小田は手にぶら下げた物をあわてて引き出しの奥に突っ込み、興奮と後悔が入り混ざった気持ちを落ち着かせた。
_一方花織はトイレから出るとすぐに小田の死角に身を隠し、風呂場横の洗濯機へショーツを落とすと、小田のいる部屋に戻って清楚な脚をストッキング越しに太ももまで露出させながら女の子座りをした。
「コーヒー、入れ直しておいたよ」
「ありがとう」
二人きりでこんなエッチな画像を見続けているのに、小田くんは私に何もしてこないって事は、遠慮してるのか、私に魅力がないのか、それとも彼なりの優しさなのか。
さっきだって、生理だと思ってトイレでショーツを確かめたら、経血じゃない液でぐっしょり濡れていたし。
なんか嫌、つくづく女ってめんどくさい。
「どうかしたのか?」
「あ……、うん……、こんなこと私が言ったらキャラが違うけど、女って生理もあるし、妊娠もあるし、そうしたら出産だってあるじゃない?だから色々めんどくさいな、なんて思ったの」
「それに比べて男は気楽なものだ、か?」
「そうは言わないけど……そうなのかな?」
「どっちだよ」
「色々だよ、色々」
「まあ、ブログの彼女たちみたいに他人に言えない秘密ってのが誰にでもあるんだし、それをどこまで覗いていいのか、境界線もなくなってしまった環境に馴れ合っているだけなんだ」
「それってどういうこと?」
_花織に返答を迫られ、さっき見てしまった事を意識するとなかなか真っ直ぐには言えなくなる小田。
「秘密は秘密にしておくのが利口だよな?」
「小田くんがしている事は誰も誉めてくれないけど、その秘密を利用して彼女たちに体の関係を迫るわけでもないでしょう?どちらかと言えば味方だよね?」
「そのつもりだ」
「知ってもいい秘密だってあるんじゃないかな?」
「知ってもいい秘密か……」
_小田の脳裏には少なからず花織との未来が描かれていて、引き出しの奥に潜ませている秘密を知ったところでその思いは変わらない。
「花織の秘密も検索してみるかな」
「えー、やだ」
「ははは、冗談だよ」
「そんなことしたら絶交だからね?」
_アイラインに皺を寄せて怒ったフリをしながら、「さっきのブログの続きを見ましょう」と悩ましく脚を組み替える花織。
_小田の目がそれを追う。
_彼女のスカートの中の事情など、今の小田には到底推理できそうにもなかった。
_コーヒーの湯気が立っているうちに二人は植原咲のブログで彼女の秘め事を確かめ、そしてある共通点を見つけた。
「ねえ、私気づいたんだけど、彼女たち三人とも体調の変化をブログに書いているわ」
「女性の体調といえば、月経のことか?」
「ううん、違う。たまたまかも知れないけど、軽い脱水症状を訴えるカキコミが目についたから、何かの内服薬の副作用じゃないかしら?」
「そうだとしたらダイエットの為にサプリメントを過剰摂取したとか、睡眠薬に近いハルシオンのようなものか」
「もしも得体の知れない違法ドラッグを彼女たちが飲んでいたのだとしたら、それをどんなルートで手に入れたかも気になるところね」
「そこに犯人が絡んでいそうだな」
「ネット売買でなんとでもなっちゃうのも怖いし、裏の市場っていうの?その規模だって想像もできないわ」
_花織の口数が増えたことに、小田は意味深な笑みを見せる。
「ひとの顔見て笑うなんて、なに?ようやく私の魅力に気づいた?」
「頼もしいよ」
_彼のその言葉に照れ笑いをして、花織は少し鼻をふくらませた。
*
_美山砂羽、徳寺麻美、植原咲、この三人がアダルトブログのユーザーだった事、さらにその姉妹サイトでは「魔女コンテスト」が盛り上がりを見せていて、そのイベントにも彼女たち全員が画像を投稿していた事が確定した。
_そこに目をつけた何者かが薬物を使って彼女たちを乱暴し、「魔女狩り」だと囃したてるマニア連中の注目を集めている事もわかった。
「ただ賢くて、得する顔をしているだけだと思ってたけど、意外に花織も勘が鋭いところがあるんだな」
「なにそれ、得する顔ってなんなのよ?」
「可愛いってことだよ」
_一瞬、真顔になった花織の耳は恥ずかしそうに赤くなって、ピアスの小さな光輪もよく似合った。
「冗談だって……顔に書いてあるわよ……。そういうことは……好きな子に言いなさいよ……」
_まともに小田の目を見れなくなって視線を落としてみると、そこにはたくましい胸板と男らしい腕があった。
_花織の心臓がドキドキするたびに、血の巡りは乳首や膣をいたずらに疼かせた。
「それじゃあ、俺帰るわ」
「うん……」
「薬のことなら黒城のやつが詳しいんだが、まだ体調悪そうだし、俺なりに色々調べてみるよ」
「私、小田くんの役に立った?」
「今の俺には花織が必要だ。またよろしく頼むな」
「ありがとう」
_推理ゲームにも進展が見られたが、二人の関係もわずかな進展があったのだろうと、それぞれの思いを秘めたまま「おやすみ」「おやすみなさい」と言葉を交わす。
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