街外れに一棟の倉庫を営む会社があった。
倉庫には山積みの保管を依頼された荷物が所狭しと整理されている。
しかし作業する従業員の姿は無く活気は無いように思われた。
そんな倉庫会社の事務所内に一人の男がデスクに腰を降ろし書類に目を通していた。
「遂に人事異動か…でも仕方ないな…この不景気じゃ…」
この倉庫の親会社からの人事異動の通達。
不況の煽りから決断された経費削減の証…
オンライン化が進む中で賃金の低いパート従業員の起用を決断した結果であった。
一時期は活気に溢れ部下も多数いた倉庫も今は男一人…
だが男一人でも物流の冷え込みとオンライン化の管理態勢が暇を更に持て余させていた。
当然と言えば当然の親会社の決断であった。
男は事務所で一人辞令を受け止め明日からのパート社員の面談に入る準備をする。
最後の倉庫管理責任者としての任務を与えられた男。
パート起用の権限が総て男に任された。
倉庫管理業務はオンライン化が進み今は容易な業務…
そして 今の現状は ただ倉庫のお留守番的な冷えきった物。
男は面接に応募して来た数十人の履歴書を手に溜息を更についた。
「堕ちたもんだな…ここも…こんなパートでもこなせる所になっちまって…」
男は履歴書一枚一枚に目を通す。
年配者から高校卒業したての若者まで…
今の不景気の煽りが見え隠れする応募の年齢の格差であった。
中には一流商社に勤務していた者までもが居た。
そんな履歴書を見る内に男は思った。
「まだ俺なんかマシな方だな…人事異動で済んでよ…」
男は自分の境遇に感謝するのであった。
そして男は一枚の履歴書に見る手が止まった。
その履歴書に書かれてある名前そして張りつけてある写真に目が止まる。
「女だ……」
数有る応募者の中で只一人の女性であった。
男は女の履歴書を隅から隅まで目を通した。
【藤田 直子 35歳】
そして結婚もし子供1人の人妻であった。
履歴にはパソコン検定の資格を持っているようで事務の経験もあるようであった。
しかし男は その事よりも貼られた証明写真に釘付けになる。
「び…美人な女だな…この女…」
男は女の写真に魅了された。
栗色の肩より少し長いウェーブする髪に目鼻立ちの整った美顔…
男の好みに総て一致する美顔に胸がときめく。
そして この女の面接の日時を確認する男。
親会社からの面談スケジュール表を確認する。
「明後日か…」
男は女が訪れる日に何故か心を弾ませた。
そして明くる日…
いよいよ今日から面接が始まる。
しかし…
来る者…来る者が何か男にはパッっとしなかった。
何か手当たり次第に面接を受け したくも無い仕事ながら仕方なくする…
そんな印象を男は感じていた。
曲がりなりにも自分がやって来た職場の後継者選びと言う事のプライドが許さなかった。
そして…
「ダメたな…こりゃ…あんな奴らに任せられないよ…幾ら何でも…」
嘆ぐ男は溜息をつき面接の一日目が終わった。
そして面接二日目の日を迎える…
午前中から何人かの面接をこなし昼の休息を取る男。
「やっぱ…期待は出来ないな…」
やはり一日目と同様に男の意に添う人材は見つからなかった。
「さぁ…昼からは何人来るんだ?」
男はスケジュール表を再度確認する。
「お…今日だったな…あの女…」
男は履歴書で心時めかせた女の面談を心待ちにする。
そして午後からも続く面接…
「次だな…あの女…」
そして待ちに待った女が遣って来る時間を待つ男。
そして時刻より少し早めに女が面接に訪れた。
「あの…すみません…少し早く着き過ぎちゃって…」
事務所の扉を恐る恐る開け声を掛けて来た女。
男は女の来社に満面の笑みを浮かべ迎える。
「いやいゃ…構わないですよ…藤田さん…でしたよね…さぁ…お入り下さい…」
女は男の言葉に会釈をし事務所の中にと入って行く。
「さぁ…どうぞ…汚い事務所ですが…お座り下さい…」
女は恐縮したように椅子に腰掛け男と向かい合わせになる。
そして面接は始まった。
「いやぁ…女性の方は貴女が初めてなんですよ…」
男は和む空気を作るように話し掛け面接がスタートする。
色々と話す内に男には他の面接者には無い意気込みを女に感じた。
「いゃいゃ…そんなに気張ら無くても…うちの倉庫業務は総てオンラインですから力仕事も有りませんよ…」
女は倉庫業と聞いた職に力仕事も覚悟の上で面接に望んでいた。
そして面接は女の好印象を男に与え終わった。
「あ…ありがとうございました…宜しくお願いします…」
そして女は深々と頭を下げ事務所を去って行くのであった。
女の後ろ姿を目で追う男…
「凄げえ美人だったな…写真より若く見えるし…スタイルも抜群だ…堪らねえ…」
男は女の去って行く姿を見えなくなるまで目で追うのであった。
そして面接は後にも続き総てが終わった。
「ふぅ…やっと終わった…不景気なんだな…こんな倉庫のパートだって言うのに沢山来るんだな…」
男は以前にパート募集をした事を思い返した。
「前なんて誰も来なかったのによ…時代だな…」
そして男には残された大事な仕事が待っていた…
【採用者の決定】
男は頭を抱えた。
「どうすんだ…? 殆どが腰掛け程度にしか思っちゃ居ねえ奴らばかりなのによ…」
面接時に書き留めた応募者の印象と意気込みを書き蓄めたメモを見ながら必死に確当する人材を探った。
だが…出るのは溜息ばかり…
「ダメだな…」
半ば諦め掛けた時…
「あ…あの女だ…」
男はメモに好印象を書き留めた女のページで手が止まった。
「しかし…女だしな…」
女性と言う事が男には引っ掛かる所であった。
しかしながら女性と言う事以外では意気込みや持っている資格などは申し分が無かった。
「まぁ…慌てず…まだ…期限あるし…ゆっくりと決めるか…」
そう男は結論付け事務所の灯りを消し業務を終えるのであった。
そして次の日もまたその次の日も何時もと変わらぬ出勤をし事務所で一人業務をこなす男。
「今日で最終結論のリミットだな…」
採用者の最終決定を下す期限の日がやって来た。
しかし…まだ男は決めかねていたのであった。
そしてデスクに座り悩む事半日…
遂に男は結論を出したのであった。
「よし…決めた…藤田さんで決定しよう…」
男は女性と言う以外に何一つ問題が無い女を後継に決める事にした。
そして早速にも親会社に連絡をし採用承諾の許可を得た。
そして採用通知書が書面によって女に郵送される。
後は女さえ働く意志が有れば書面に書かれている初勤務の日時に現われるであろう。
男は期待半分で時を待った。
そして明くる日…
親会社から送られて来た女が着用するであろう制服が男の手元に届く。
初めての女性用事務制服が男の元に届き何故か男は緊張する。
部下を従えパートまでいた時ですら無かった女子の制服が男の目には新鮮さに加え少し淫らな感覚も沸いていた。
グレー色のスカートに同じ色のベストジャケット…
そして白いブラウス…
真新しい制服ながら男の想いは淫らに浮かんだ。
女を迎え入れる準備は総て揃い後は初出社の日を待つのみ。
男は親会社から女の研修期間と称し三週間の研修業務を与えられていた。
その三週間で総ての業務を引継ぎ そして男は転勤先に向かう事となっていた。
男は引継ぎに必要な事柄を整理する日々を女の出社までする。
そして いよいよ女が出社して来る日を迎える。
朝の9時が出社時刻…
男は半信半疑ながら女の出社して来るのを心待ちにした。
そして…
「お…お早ようございます…」
事務所の扉を開き恐縮するように女が出社して来た。
何故か男の心は時めいた。
「あ…お早ようございます…」
「今日からお世話になります藤田です…宜しくお願いします…」
そして男は女を今日は従業員として事務所に迎え入れるのであった。
「藤田さん…机はココを使って下さい…」
女の机には既にオンラインで繋がるパソコンが準備され女の業務を待っていた。
「今日は一日 自分が業務する事を見ていて下さい…本格的には明日から研修に入ります…」
男の放つ研修と言う言葉に女は緊張した。
「いやいゃ…研修なんて名ばかりで大した事は無いですがね…」
男は笑って場を和ませた。
男が同じ歳と言う事を面接の時に女も聞いていたので直ぐに打ち解けるように場が和む雰囲気の元で一日が過ぎて行った。
そして早くも退社の時間がやって来る。
そして…
「あ…藤田さん…明日からなんですが…この制服で勤務願いますか?」
男は送られて来た真新しい制服を女に渡した。
「うわぁ~何十年振りかしら…制服なんて…OLに戻ったみたい…」
女は支給された制服に感激した。
そして…
「ロッカーは一応 別室であるのですが…どうします?使います?」
「家が直ぐ近くなんで…家から着て来ます…着替えるのって面倒だし…」
「そうですよね…あ…でも何時でも使って下さいね…」
「有難うございます…じゃ…明日も宜しくお願いします…」
そう言うと笑顔で足早に帰宅する女であった。
男は時めいた…
明日から あんな美人と二人だけの時間を共に出来る事を。
しかし…
そのときめきが…
やがて…
邪悪な物に変身しようとは…
今の男には知る事が無かった…
続く。
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