翌朝、診察室で準備をしていると、佐藤さんが話しかけてきた。目が赤い。
「あのね、こうちゃん。ちょっといい?」
「なんでしょうか? 佐藤さん。仕事がありますから手早くお願いしますよ」
佐藤さんが唇を噛み締める。
「ねぇ、こうちゃん。これなんだけど」
彼女はポケットからおもちゃの指輪を取り出す。
昨日の巾着袋の中身である。
子供の頃、婚約の証として縁日で買って二人で交換したものだった。
「それが、どうかしましたか」
「もう一度受け取ってもらえないかな?」
「どうしてですか? あなたと俺の婚約はあなたが解消したのですよ?
もう一度言います。それは捨てといてください」
佐藤さんの目から涙が溢れる。
「こうちゃん、ごめんなさい。私が馬鹿だったの。許して!!」
「そういうお話ならお聞きしません。佐藤さんは今日から第三診察室ですね。準備があるのではないですか?」
佐藤さんはうなだれたまま診察室から出ていった。
・・・
俺は勤務終了後、響に誘われて副部長室で飲んでいた。
「ほらーっ、もっと飲みなさいよー」
俺は、響の額にデコピンをする。
「おまえは、そんなキャラじゃないだろ? 一斗飲んでも酔わないくせに」
「あたしゃ妖怪か!!」
決して響は、酒の席に他人の嫌がる話題をもってこない。
そこが、澄男や恵子さんとの酒と異なるところだ。
俺は、そんな響の「漢らしさ」が気に入っている。
あれ目が回る。今日はさほど飲んでいないのに・・・。
・・・
「・・・あれ?」
・・・またかよ・・・。
俺は、全裸でベッドに四肢を拘束されていた。
隣を見ると、佐藤さんが全裸で横になり俺を見ていた。他には誰もいない。
「こうちゃん、おはよ」
佐藤さんが声をかけてくる。
「佐藤さん、これはどういうことなんですか?」
「私の身体でこうちゃんを誘惑して、もう一度許嫁にしてもらうの」
「あなたにそんな資格があるとでも?」
俺の言葉に佐藤さんは唇を噛み締める。
そして、
「確かに、婚約を解消してしまったのはこの私。
だけどね、この世で一番こうちゃんのことを好きなのも私なんだよ?」
と開き直った返事をする。
「それなら、どうして婚約解消という話になったのですか? 俺自身よりも、あなたの夢とか自尊心とやらの方が大事だったのでしょう? 俺は、そんな女はごめんですよ。結婚したら、俺が苦労するのが目に見えています」
「こうちゃん、ひどいよ。何も、そこまで言わなくてもいいじゃない!!」
佐藤さんは涙をこぼしながら、俺に覆い被さり実力(?)で口をふさぐ。
佐藤さんは唇を離すと、
「こうなったら、こうちゃんの身体私なしではいられないようにしてあげる」
リボンを引きポニーテールを解くと、そのリボンで俺のぺニスの根元を縛る。
「な、何をしているんだ?」
「ふーんだ。こうちゃん意地悪だから、射精できないようにしておOんちんいじめてあげる」
そして、俺のぺニスの亀頭を舐め始めた。
ぺニスを縛っただけではあきたらず、右手でぺニスの根元をつかんでいる。
「お、おい。止めろよ」
「こうちゃんが私を許嫁にしてくれたら、射精させてあげる。彼女でも許嫁でもお嫁さんでもない相手に、射精したらだめなんだよ?」
うわーっ、まじか?
「さ、佐藤さん、こんな方法誰に教わった?」
「響ちゃん」
あんのアマー。
最初から、こういうつもりだったんだな。
それなら、堪えきってやろうじゃないか。
俺は、目を閉じて深呼吸をすると精神統一を行う。
「あれ? 小さくなってきちゃった」
佐藤さんは、あわてて色々試しているようだ。
「こうちゃん。そんなに私のこと嫌いになっちゃった? もう私じゃ興奮しないの?」
半べそをかきながら、そう言ってくる。
「わかりました。もう二度とこんなことしません。三枝先生、今まで済みませんでした」
ふらふらと立ち上がり、身なりを整えるとまるで亡霊のようにふらふらと病室から出ていく。
「お、おい。佐藤さん、俺を解放して!!」
俺は、佐藤さんの背中に向かって叫ぶが彼女の耳には届かない。
すぐに響が入ってくる。
「ちょっと幸一、強情もいい加減にしなさいよ?」
「強情も何も、気分一つで婚約解消して、また気分一つで復縁を迫る。こんなこと認めたら、夫婦生活は成り立たないよ」
響はため息をつくと、
「明日の朝まで、そうして頭を冷やしてなさい。藤田さんに、朝に幸一を解放するように言っておくわ」
俺に布団をかけて出ていった。
・・・・・・
それから二週間ちょっと過ぎた当直の日、俺は整外の市川先生と話していた。
するとナースコールが鳴り、佐藤さんが対応しパタパタと出ていった。
・・・
・・・ん?
ちょっと遅くないか?
佐藤さんはなかなか戻ってこない。
またナースコールが鳴った。さっきと同じ病室?
鈴木主任が対応する。
「助けて!!」
「えっ、鈴音? 鈴音どうしたの?」
俺は鈴木主任に詰め寄り、
「どこだ?!」
「207号室です」
「207だな!!」
俺はナースセンターを飛び出すと、207号室に向かう。
「どうした?!」
ドアを開けると、半裸の佐藤さんの上に患者が馬乗りになり、その回りを患者が取り囲んでいる。
「貴様ら、何をしている!!」
馬乗りになっている患者を突き飛ばすと、俺は佐藤さんを背中にかくまう。
カシャッ。
どこからか、シャッター音らしきものが聞こえた。
患者の一人が、
「あらぁーっ、思ったよりも早かったわね」
「ん?」
別の患者が、
「うむ。さすがは幸一君だ」
・・・
「皆さん、いい加減にしてくださいよ」
俺はあまりの事態にその場でへたりこんでしまった。
取り囲んでいた患者は、白山本院長、恵子さん、響、藤田さんだった。
俺が突き飛ばしたのは澄男で、この病室の主は部屋の隅でデジカメを構えていた。
要するに、俺は一杯喰わされたのである。
恵子さんは佐藤さんにタオルケットをかけながら、
「鈴音。あなた愛されているじゃない。あまり、わがまま言ったらダメよ」
「うん」
佐藤さんは嬉しそうにうなずく。
響が患者さんからデジカメを受け取りながら、
「幸一、決定的な証拠と証人がいるのだから、もう意地をはるの止めたら?
さっきの幸一、鈴音のナイトみたいで格好良かったよ」
「幸一君、馬鹿でわがままな娘だが、どうか許してやってくれないか? そして、ずっとこの娘を支えてやって欲しい」
本院長が頭を下げる。
俺はあわてて、
「院長先生、どうか頭をおあげください」
と言って本院長に駆け寄る。
「先生、もう年貢の納め時だよ。佐藤さんのこと許してやったら?」
患者さんにまで言われるとは・・・。
俺は鈴音の方に向き、
「鈴音!! ほら指輪をよこせ!!」
鈴音は嬉しそうに
「うん!!」
と言いながら、俺に指輪を渡してくれる。
「ちょっと待ちな」
俺は鈴音の左手小指から、古ぼけた指輪を抜くときれいな方の指輪を鈴音の小指に戻した。
「えっ?」
「女の子の指輪は、きれいな方がいいだろ?」
「こうちゃん、ありがとう」
翌日、鈴音は生理が遅れているということで産婦の診察を受けた。
結果は案の定、鈴音は妊娠していた。
「こうちゃん、やはりあの時子宮内に射精していたんだね。次の朝、普段出てこない感じの液体が膣口からたくさん出てきたから、おかしいなとは思っていたんだよ」
鈴音は下腹に手を当てながら、上目遣いで拗ねたように言う。
俺は冷や汗をかきながら、
「まぁ、恵子さんと院長先生に孫の顔を見せることができるんだから、いいじゃない。さ、恵子さんに報告してこよう」
「うー、恥ずかしいよぉ」
俺は、むずがる鈴音の唇に軽くキスをすると言った。
「鈴音、愛してるよ」
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