恵からメールが来ていた。
内容は叶からの伝言で、
「ごめんなさい」・「怒ってないよ」・「大好きだよ」
とのことだった。
三題噺か?(^^;)
昨夜や過去の叶の言動を振り返りながら考えてみる。
叶は処女ではなかった。それは間違いない。
しかし、その性体験はレイプのように叶自身の意にそわないもの、だったのではないだろうか?
叶は昔から、ことあるごとに俺の嫁になると主張していた。
それなのに、自分の意思に反する形で他人に身体を汚された。
そのことを気にしているからこそ昨夜の暴走があり、この「ごめんなさい」があるのだと思う。
あいつは余程のことがなければ、「ごめんなさい」という殊勝な言葉を俺に対しては使わない。
普通に暴走したくらいでは、「悪かったわね」とふんぞり返っているような奴なのだ。
だとしたら、俺も叶に対して悪いことをしてしまったな。
叶の連絡先を知らないとはいえ、恵経由の伝言で謝るのは喜ばないだろうから、篠原の家に行ったときにでも直接謝るか。
・・・。
翌日曜日の朝、恵から朝食のお誘いがあり、篠原の家に向かう。
「お兄ちゃん、お姉ちゃんを起こしてきてくれないかな?」
叶を起こす?!
そんな恐ろしい行為出来るか!!
あいつは一度熟睡したら、めちゃくちゃ寝起きが悪い。
俺は昔に大変な目にあい、それ以降起こしにいったことはない。
「嫌だよ。俺、一度死にかけたもん。
そもそも今まではどうしてたの?」
恵と勝は苦笑いをする。
恵は竹刀を出してきて、
「これでお姉ちゃんのお腹を叩いていたんだけど・・・。
お兄ちゃんのせいで、お腹を叩けなくなったかもしれないから」
俺のせいって(^^;)
「いいもんあるじゃん。
で、叶の部屋は?」
「二階の突き当たりだけど、どうするの?」
「腹が駄目なら頭があるだろ?」
俺は竹刀を携えて、叶の部屋に向かう。
「ちょ、ちょっと、お兄ちゃん?!」
追いかけてくる恵と勝に、「水性サインペンとデジカメある?
あったら持ってきて」
恵からペンだけ受け取る。
恵が叶の部屋を開けて三人で入る。
「おーい、叶ぇ、起きろぉ」
1m位離れたところから声をかける。
これで起きるようなら誰も苦労はしない。
「起きろぉ、起きないと落顔するぞぉ」
「・・・すればぁ」
吹き出している二人に、
「恵ちゃん勝くん、証人になってね」
俺は、叶の両頬にサインペンで渦巻きを書く。
心得たもので、即座に恵が写真を撮る。
「叶、起きないとキスするぞ」
「すれば」
やけに、はっきりした返事が返ってきたな。
「駄目ーっ、お兄ちゃんのキスで起きるのは恵なの!」
「チッ」
どこからか小さな舌打ちが聞こえる。おいおい。
「もう目が覚めてるんだろ、いい加減起きろよ」
「全くひどいわねぇ。
乙女の顔に落書きするなんて」
乙女? 俺は突っ込みたかったがスルーして、
「ほら、顔洗ってこいよ」
と促した。
恵と勝の二人と入れ替えに叶が戻ってくる。
俺は土下座して、
「金曜日はすまなかった」
と謝る。
叶はあわてて寄ってくる、「ちょ、ちょっと、やめてよ稔」
俺は顔を上げ、
「叶が嫌がっていることを無理矢理にやってしまった。俺は最低だな」
叶は頬を染めて嬉しそうに、
「そんなことないよ。
稔は昔から優しいよ。優し過ぎるくらいだよ」
と言ってくれる。
俺は、パジャマの上から叶の下腹を触る。
「ちょっと、稔!」
「ここに、俺たちの子供が出来たことがわかったらすぐに教えてくれ。
お前の職場の責任者に頭を下げに行くから」
「稔ぅ」
叶は涙ぐみながら抱きついてきた。
「ごめんなさい。ごめんなさい、あたし」
俺は、叶の唇に人差し指を当てて言葉を止めさせる。
「ずっと、つらい思いをしてきたんだろ?
もう楽になっていいよ。
俺たちの子供は、誰が何と言おうとも俺と叶だけの子供だから」
俺は叶に押し倒され唇を奪われる。
しょっぱい。事情が事情なだけに文句は言えないが。
しばらく叶をなだめて、彼女から離れる。
「朝飯待ってるみんなに怒られるから。
おまえも早く準備して降りてこいよ」
「もう少しここにいてよ」
「おまえ、着替えるんだろ?」
「着替えるよ。私の裸を見てもらって稔を誘惑するの。
もう恵に遠慮なんかしないんだから」
こう言われたら出ていく訳にはいかない。
あーっ、もう。この知能犯め。
「わかったよ。わかったから早く着替えろ」
朝食時、叶と恵との間で火花が散っていた。
朝食の後、俺は幸子さんに呼ばれて幸子さんの和室に行く。
部屋の中はお香のにおいが立ち込めていた。
幸子さんは着物姿で上座に正座している。
俺が幸子さんの向かいに座ると幸子さんは、
「叶の心の傷を癒してくれて本当にありがとう、稔くん」
相変わらずだな、幸子さんは。
伏見の家には、千里眼的な能力を持つ者が生まれることがある。
幸子さんはかなり強い力を持っていて、結婚前は氏神の神社で正式な巫女をしていて、結婚してからは離婚していた二年間は除いて、篠原のおじさんの会社で相談役みたいなことをしている。
「要ちゃんがあなたに話したことは、あなた自身が採った言動の部分を除き、おおむねその通りです。
ただ、理由があなたに伝わっていませんでしたね」
幸子さんは、盲いた目で俺を見つめる。
「伏見グループ総裁である篠原は、いずれ稔くんに総裁の立場を譲ろうと考えています」
「えっ?」
「ですが当時のあなたでは、総裁にする訳にはいきませんでした。
もちろん今も足りませんが。
叶が言っていましたが、あなたは優し過ぎるくらいに優しい。
しかし、それだけではグループ経営はできないのです。
もっと、たくましくなりなさい。
叶や恵、要ちゃん。その他あなたが関わった全ての女性・子供を支えていけるようになりなさい」
「何で要ちゃんが出てくるのさ」
「要ちゃんはあなたの子を宿しましたよ。
叶もですけれど」
俺は頭を抱えた。
「伏見本家の血を受け継ぐ者が増えることは、大変に喜ばしいことです。
稔くん、あなたは生まれてくる子供が激減している伏見家全体の希望なのですよ。
あなたが伏見一族の当主なのです。自覚と自信をもって頑張りなさい。
一族当主とグループ総裁とを、それぞれ別人が務めている現状を、あなたは恥じなくてはなりません」
・・・。
長かった幸子さんのお説教から解放され、フラフラとリビングに戻ってくる。
「何か一気にやつれたわね」
叶が声をかけてくる。
「幸子おばさんにお説教食らってたよ。もっと自覚をもって頑張れ、とさ」
「み、稔!」
叶があわてている。
「稔くん、誰がおばさんなのかな?」
そこには、ワンピースに着替えた幸子さんがいた。
笑顔ではあるが、こめかみに青筋が浮かんでいる。
「前に、今度言ったら、ただでは済まさない、と言ったわよね?」
「ご、ごめんなさい」
「いーえ、許しません。
稔くんの魂は市松人形に封じ込めます」
「「「お母さん!!」」」
「・・・と言いたいところだけど、愛する私の子供・孫達に免じて許してあげましょう。
ただし稔くん、今後は私のことを愛情をこめて『おかあさま』と呼びなさい」
「は、はいっっっ。
わかりました、幸子おかあさま」
俺は顔を真っ青に、そして叶と恵は恥ずかしさで、また勝は笑いをこらえて顔を赤くしていた。
・・・。
午後の俺とのデート権をかけて叶と恵がもめたため、俺は幸子さんにまた説教されることとなった。
でも、洋室?
幸子さんは和室を伏見家重鎮としての立場、洋室を普段の生活にと使い分けている。
ノックの返事を待って部屋に入る。
お香? じゃないな。アロマテラピーか。そんな感じの香りがする。
テーブルを挟んで幸子さんの向かいに座る。
「そんなに構えなくてもいいわよ。
難しい話はしないから」
「それで質問なんだけど、あなたレイプ以外の普通のセックスはきちんと出来てる? 瞳ちゃんとの一件で変なトラウマなんかは残ってない?」
痛いところを突かれた気がした。俺は俯きながら、
「お、おかあさまが心配されている通りです」
「そっか。ごめんなさい。
でも、困ったわね」
全然困っているようには見えないが。
幸子さんの額に青筋が浮かぶ。
「あなたねぇ。まぁ、いいわ。
ただ一つだけ。稔くん、あなた思っていることがはっきりと表情や雰囲気に出るから、今後は気をつけなさい」
「は、はいっ」
・・・。
「私が、あなたのトラウマを治療するしかないみたいね」
幸子さんがため息をつく。
そして、立ち上がると扉を施錠して、メトロノームを持ってくる。
カッ、カッ、カッ、カッ・・・・・・。
メトロノームを作動させてテーブルの隅の方に置き、元の席に座ると幸子さんは、
「私の目を見なさい」
と俺に命令した。
・・・。
幸子さんが立ち上がり俺に近付いてくる。
おもむろに俺の唇を奪うとディープキスをしてくる。
なんだか、心に染み着いた重苦しい感情が、幸子さんと触れ合っている部分から抜け出ていく感じがする。
次第に俺の心は軽くなっていく。
・・・。
ふと我に返ると、幸子さんはテーブルをはさんで俺の向かいに座っていた。
幻覚?
「気分はどう?」
「なんだか、心が軽くなったような気がします」
「そう、良かった」
柔らかい微笑み。
さすがは、近所で評判の美人姉妹の母親。
見た目だけは十分かわいらしい女性に見える。
えっ?
ペニスが勃起する感覚。
レイプ以外では、ここのところなかったものである。
しかし、その後急速に心の中に暗黒の雲が広がってゆく。
(幸子さんを犯したい)
そんな欲望が。
幸子さんと俺とは五親等離れていて法律上は結婚も出来るが、現実はもう一人の「母親」である。
そんな相手に欲望を抱くとは。
俺は幸子さんに襲いかかり床に押し倒す。
水色のワンピースの膝下丈のスカートをまくり上げると、白のショーツを足から抜き取る。
俺はペニスを取り出すと、そのまま一気に膣口に挿入した。
乱暴に腰を動かす。
まるで何者かに操られているかのような蛮行だった。
「おかあさま。出るよ!!」
俺は、強く幸子さんを抱き締める。
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン・・・・・・。
俺の全てが幸子さんに流し込まれる感覚。
射精が終わった後も、俺は幸子さんを抱き締めたまま彼女とディープキスをしていた。
が、彼女は終始無言だった。
・・・。
ふと我に返ると、幸子さんと俺はテーブルをはさんで向かい合わせに座っていた。
先程もあった感覚。
幸子さんの着衣は、全く乱れていない。
「稔くん、どうかした?」
「いえ、なんでもありません」
「そう」
と言って、幸子さんはメトロノームを停止させ元の場所に片付ける。
「治療終了」
幸子さんは微笑みながら宣言する。
えっ?
確かに見も心も軽くなったような気がする。
こんなのいったい何年ぶりのことだろう。
「さっ稔くん、叶と恵のところに行っておあげなさい」
・・・・・・。
それから、俺はレイプではなくても問題なく女を抱けるようになった。
幸子さんには本当に感謝している。
が・・・。
幸子さんが妊娠したことが判った。
「もしかして俺の子?」
と訊いてはみるのだが、いつもそれとなくはぐらかされている。
また俺は勤めていた塗装会社を辞め、篠原商事の子会社の新設に合わせてそこの社長となった。
とはいえ、実際その会社はペーパーカンバニーで俺は事実上篠原のおじさんの私的秘書のような仕事をしている。
恵と強引に関係を結んでから、俺の人生はそれまで予想していなかった方向に大きく動き始めた・・・。
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