あたしは、小さな頃からずっと稔のことを好きだった。
両親が仲違いから離婚して、母に連れられて篠原の家を出た時。
両親が離婚したことは哀しかったけれど、稔のそばで暮らせることとなって内心では嬉しかった。
逆に二年後両親が再婚した時には、稔のそばから離れることとなり本当に哀しかった。
伏見の本家とか分家とか関係なく、稔と親しい女はあたしと妹の恵だけ。
でも、稔は恵のことを「妹」としてしか見ていないことは明らかだったので、稔のお嫁さんになるのはあたししかいない、と漠然と思っていた。
5年前、女子大に進学した直後のあの事件が起こるまでは・・・。
その日は空手道場が休館日だったので、大学の講義が終わると直接マンションに帰宅した。
楽な部屋着に着替えるため下着姿になった瞬間、あたしは誰かに首を絞められた。
えっ? 何? 何の気配も感じなかったのに。
もちろん抵抗した。
今までも、痴漢などから実力で自分自身を護ってきたのだが、今回はどうにもならなかった。
呼吸が出来ず意識が朦朧としてくる。
抵抗の力が弱まったのを見据えてか、ハンカチで鼻と口をふさがれる。
えっ、シンナー?
首から手を離される。
口からハンカチを剥がそうとしても、もう手に力が入らなかった。
シンナーを吸わないようにしたいのだが、身体は酸素を求めて空気を吸い込んでしまう。
だんだん意識が遠のいていく。
みぞおちに一発もらって、あたしは完全に意識を手放した。
・・・。
右胸に違和感がある。
目に何かが貼られていて、何も見えないし手足も動かない。
口にも何かが貼られている。
だんだん意識がはっきりしてきた。
「・・・っ」
えっ?
あたし、何者かに全裸で手足を拘束されて、右の乳首をしゃぶられてる?
あたしの上から聞こえる男の呼吸音と、時折混ざる低い男の声。
だ、誰?
あたしは、ようやく自分がレイプされていることを認識した。
あたしに触れていいのは世界でただ一人、稔だけなのに・・・。
あたしが意識を取り戻したことに気がついたのか、男の唇があたしの肌を滑って下半身へ向かう。
だ、駄目!!
男は、あたしのあそこを舐めると膣内に舌を入れてきた。
あたしの膣内は、さんざん男に舐め尽くされる。
時折、処女膜に舌が当たるのが気持ちが悪い。
・・・。
しばらく膣内を舐められていた。
すると、男の唇が上半身を滑りながら左耳までくる。そして、あたしのあそこに熱い何かが触れた。
男は、あたしの耳たぶを噛みながら「入れるぞ」とつぶやいた。
う、嘘?!
あたしの初めては、生まれてから18年の間、ただ稔にあげるためだけに護ってきたのに・・・。
「はへ(駄目)!! ふふしへ(許して)!!」
あたしは、大きく首を振り、体も動かして必死で挿入に抵抗する。
股間に激痛が走った。
「ひはー(嫌ー)!!!!」
喪ってしまった。
稔のお嫁さんとして、結婚式で真っ白なウェディングドレスと白無垢を着る。
そして新婚初夜で稔にあたしの処女を捧げるという、幼い頃からずっと抱いていた夢が砂上の楼閣のように崩れ落ちていく。
哀しみと、心と体の痛みで涙が止まらない。
男は、大きな抜き差しでガンガンと亀頭をあたしの奥にぶつけている。
直接内臓を突かれているようで気持ちが悪い。
・・・。
あたしの膣内が、あたしの血と体液そして男の体液とでぐちゃぐちゃになる。
次第に男の抜き差しが早くなる。
右側の本棚には、中学時代の稔の写真が写真立てに入れてある。
あたしは、しゃくりあげながら写真の稔に心の中で謝っていた。
・・・。
挿入されている亀頭が膨らむ感覚。
さらに腰の動きが速くなる。
ま、まさか。
もしかして、膣内に射精される?!
男はいったん腰の動きを止めると、あたしの耳許で、
「射精(だ)すぞ」
とつぶやき、腰を動かし始めた。
「ははははへ(膣内は駄目)!! ふひへ(抜いて)!!」
今、ここで膣内に射精されること。
それは、レイプ魔の子供を妊娠することに直接つながる。
あたしはあわてて、次の生理日を計算する。
もうそろそろ次の生理が来るはずで、とりあえずは安全日。
ただし本能に伴い、先程の激痛で新たな排卵が起きなければ、の話だが。
それよりも一番恐いのが、もしここでレイプ魔の精子であたしの膣内を汚されてしまい、純潔な身体でなくなってしまったとしたら・・・。
将来、仮にあたしが稔に抱かれたとしても、妊娠した子供はあたしの身体に染み着いたレイプ魔の遺伝子情報を吸収してしまい、純粋な稔とあたしだけの子供ではなくなってしまうということ。
それだけは絶対に避けなくては。
あたしは再び大きく首を振り始める。
そして・・・、
男は、あたしの奥に強く亀頭を押し付ける。
駄目ーっ!! 出さないでーっ!!
ドビュッ、ドビュッ、ドビュッ、ドビュッ・・・・・・。
「ひはー(嫌ー)!! はへー(駄目ー)!!」
熱い液体があたしのお腹の中に拡がっていく。
・・・あたしは稔ではない男の精子で汚されてしまった。
レイプで。
犯されて。
大好きな稔に対して、本当に申し訳がなかった。
でもあたしには、しゃくりあげることしか出来ることがなかった・・・。
・・・・・・。
男があたしから離れたのは、その後「抜き差しと膣内射精」を二回繰り返してからだった。
どこかで耳にした「抜かずの三発」という言葉が頭に浮かぶ。
男は、あたしの左手の拘束だけを解いてベランダから出ていった。
それから、すぐにあたしは実家に戻った。
子供の頃からの大きな夢が崩れ去った場所には、一秒たりともいたくはなかった。
また、幼稚園の頃からずっと続けてきた空手もやめた。
自分の夢すらも護れない「護身術」なんて、続ける意味は全然なかった。
事件のことは誰にも話さなかったのだが、母には気付かれてしまっていた。
唯一救いだったのは、レイプ魔の子供を妊娠することだけは避けられたこと。
信仰上、緊急避妊も中絶も許されない中で、もし妊娠してしまったら産むしかなくなってしまうところだった。
5年後、妹の恵が作業員風の男にレイプされた。
そして最悪なことに、レイプ魔の子供を妊娠してしまった。
あたしは、仏神があたしたち姉妹に与えたもうた試練の重さに、正直なところ堪えかねていた。
あたしは恵を汚した男を何としても探しだし、報復する決意を固める。
そんなある日、恵から彼氏を連れて帰るという電話があり、少しして稔を連れて帰ってきた。
あたしは理解した。
恵のお腹の中にいるのは稔の子供であることを。
あたしは「明日仕事が早いから」と談話の場から離れる。
そして、スーツ姿のまま外壁に寄りかかり稔が出てくるのを待っていた。
恵への嫉妬心にかられたあたしは、稔に
「一杯付き合ってよ。いける口なんでしょ?」
と赤提灯に連れてくる。
「叶、お前相変わらず男らしいのな」
という頭にくる感想に、
「悪かったわねぇ、女らしくなくて!!
こういうところの方が、落ち着いて飲めるのよ」
と応えた。
・・・。
「ところで稔、あんたどうしたのよ。
女の子をレイプして妊娠させるなんて、あんたのキャラじゃないじゃない」
あたしは、稔にずっと気になっていたことを訊く。
その問いに対して、
「大学を中退(や)める前後にいろいろあってね」
と応えてきた。
稔が伏見グループから追放されたのは知っていたが、彼の周囲でいったい何が起こったのだろう?
優しく真面目だった稔の変化の理由は何なのだろう?
あたしには想像すら出来ないが、おそらくは相当ショックなことが起こったに違いない。
「でも、ちょっとだけ恵が羨ましいかな」
私は、つい本音をつぶやいてしまった。
ただ、本当は「ちょっと」どころの話ではない。
大好きな人に処女を捧げて、その人と自分の遺伝子だけを継いだ子供を妊娠して・・・。
そのどちらも、私にはもう叶わない夢だった。
・・・。
あたしは、つい鈍感すぎる稔に絡んでしまった。
(こいつ相当な絡み酒だな)と、稔の顔に書いてある。
・・・。
うーん。あたし寝落ちしちゃってたんだ。
ここのところ試験問題作りで寝不足だったから。
ん? えっ?!
あたし、稔にお姫様抱っこされてる!!
どうしよう、嬉しすぎる。
けどその嬉しさは、稔がタクシーの運転手に告げた場所を聞いて、一気に消えてしまった。
ホテル。
稔に、あたしが処女ではないことを知られてしまう場所のことである。
稔は、あたしをベッドに横たえると全裸にする。
あたしは、中学生の時にハプニングで稔に全裸を見られた時のことを思い出していた。
あたしの身体の見た目は、その頃とあまり変わっていない。
少しは「女らしくなった」と思われていたら嬉しいのだが。
なぜか稔は、あたしの手足をベッドに拘束する。
なぜ好きな相手にこんなことをされなければならないのだろう?
あたしは、運命を呪いたくなってしまった。
やさしいキスの後、稔はゆっくりと膣内に進み入ってくる。
当然、途中で止まることなく奥にまで到達してしまう。
「えっ?」
聞こえない位に小さな声。
でも、きっと稔の心の中を忠実に表現している哀しい声。
稔の腰の動きが止まる。
知られてしまった!! あたしが処女ではないことを。
それも、その事を一番知られたくはない大好きな相手に。
稔は、あたしの膣内で陰茎の抜き差しを開始した。
でも、それは最初から荒々しいものだった。
あたしは、その行為に稔の怒りを感じて、哀しみが増してしまった。
・・・。
忘れたくても忘れられない、射精直前の亀頭が膨らむ感覚。
あたしはあわてて、
「妊娠したら困るから、外に出してよね」
と稔に告げた。
稔は驚いて、腰の動きを止めて聞いてくる。
「なんで抵抗しなかったんだよ」
あたしは横を向きながら、
「あんたを好きだったのって恵だけじゃないのよ。
あたしだって、前からずっと好きだったんだから。
今日再会してから、ずっとあなたに抱かれたかったの」
と、応えた。
・・・。
その後あたしは、稔の「狂戦士(バーサーカー)」という物言いに頭にきてソッポを向いていた。
稔は、そんなあたしにディープキスをしてくる。
あたしには、ディープキスを含めて性行為に嫌悪感や恐怖感はあまりない。
レイプされたあたしに対して、丁寧なリハビリをしてくれた女友達がいてくれたから。
女子校では、本当によくある「百合行為」。
これのおかげで私は、セックス恐怖症から救われたのだった。
そして、稔はあたしの右乳房を乱暴に揉みしだき陰茎の抜き差しを再開する。
あわてたあたしは、うっかり稔の舌を噛んでしまう。
そして必死に、
「な、膣内には絶対出さないでよ!!
今日は危険日だから膣内で出されたら妊娠しちゃう」と伝える。
これは事実で、経験上、明日あたりが排卵予定日である。
稔は「そっか、解ったよ」と言ってはくれた。
が、様子が変だったので、「本当に解ってるの?」
と聞こうとしたあたしを、稔は唇へのキスで黙らせる。
正直これより後の出来事は、思い出したくもない。
ただ稔に嫌われることが恐くて、あたしは一つ重大な失敗をしてしまっていたことに後で気が付いた。
たぶんあたしは、赤提灯ででも稔に、「5年前にレイプされたこと」について言っておかなければならなかったんだ。
そうしておけば、大好きな人の精子を膣内で受け止めることができたのに、哀しみで涙が止まらなくなる。このような哀しい事態にはならなかったんだと思う。
・・・・・・。
あたしを探していた勝と待ち合わせて一緒に帰宅する。
起きてあたしを待っていた恵に謝るとともに、彼女に頼み込んで稔へ伝言をしてもらう。
「ごめんなさい」・「怒ってないよ」・「大好きだよ」
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