スピンオフ 綾乃、投稿を始める
授業が終わってから一週間くらい経ったころだった。
夜、ベッドの上でスマホを見ていた。📱
特にすることもなく、SNSを流し見している。
ふと、先生が言っていた言葉を思い出した。
「人は見られると変わる」
あれ、本当だろうか。
私はスマホを持ったまま、少し考えた。
銀座で買ったヒール。
歩き方の授業。
視線の話。
あれ以来、街を歩くと確かに視線を感じることがある。
「面白いな」
小さくつぶやいた。
検索欄に、なんとなく文字を打つ。
“女性 投稿”
すると、いろんなサイトが出てきた。
その中に、先生が昔ちらっと名前を出していた場所があった。
ナンネット
「ここか」
興味本位で開いてみる。
掲示板のような画面。
日記のような投稿。
写真を載せている人もいる。
思ったより普通だ。
むしろ、どこか人間くさい。
「へえ」
スクロールしていくと、いろんな人がいる。
日常を書いている人。
恋の話を書く人。
ちょっと大胆な写真を載せている人。
私は少し考えた。
先生の授業。
「ファッションは服だけじゃない」
「歩き方」
「視線」
「雰囲気」
もしここに投稿したら、どうなるんだろう。
知らない誰かが読む。
知らない誰かが想像する。
それって、ちょっと不思議だ。
私はアカウントを作った。
名前をどうするか迷う。
本名はもちろん使わない。
少し考えて、入力した。
Aya
シンプルでいい。
プロフィールを書く欄がある。
少し迷ってから書いた。
「関東の大学生。ヒールの練習中。」
それだけ。
投稿ボタンの前で、少し手が止まる。
何を書こう。
うーん。
私は銀座の日のことを思い出した。
ルブタンの靴。
ヒールの高さ。
歩き方の練習。
あれを書いてみよう。
私は打ち始めた。
「最近ヒールを履く練習をしています。
最初は全然歩けなかったけど、姿勢を意識すると少し変わるみたい。」
そこまで書いて、ふと笑った。
なんだか日記みたいだ。
でも、投稿ボタンを押した。
ポチ。
それだけのことなのに、少しドキドキする。
「まあ、誰も見ないでしょ」
スマホを置いて、お茶を飲んだ。☕
数分後。
通知が来た。
コメント 1
「え?」
思わず画面を見る。
知らない人の名前。
コメントにはこう書いてあった。
「ヒール似合いそうですね」
それだけ。
短い一文なのに、少し不思議な気持ちになった。
知らない人が、私のことを想像している。
私はスマホを見ながら、少し考えた。
先生が言っていた。
「未知には価値がある」
なるほど。
顔も知らない。
声も知らない。
でも、言葉だけで想像が広がる。
それってちょっと面白い。
私はもう一度投稿画面を開いた。
次は何を書こう。
ヒールのこと。
歩き方のこと。
それとも――
「視線の話」
私は少し笑った。
先生が知ったら、きっとこう言うだろう。
「いい観察だ」
夜の部屋は静かだった。🌙
そして私は、もう一つ投稿を書き始めた。
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