今まで何もなかったかのように
それから、今まで何もなかったかのように。ヤスコが息子モトオを連れて買い物へ出かける前のこと。防寒のために薄茶色のオーバーコートを体全体に覆うかのように着ると、彼の背中を軽く優しく叩き。「なあ、これから一緒に買い物へ出かけるから。荷物持ちの手伝いをお願いよ。」そして、モトオは母に言われたことを受け入れるかのように返事をした。「うん、分かっているよ。かあちゃん一人で重たい荷物を持つのは大変だからね。」息子からそう言われたヤスコはニッコリと笑みを浮かべる。「ほんまによく気の利く子やな。このかあちゃん、嬉しいわ。ウフフフフ。」ニッコリと笑みの表情を浮かべた色黒で丸い顔立ちが息子モトオの目から見ればなぜだかあまりにも色っぽくて魅力的に思えてならなかった。でも、それだけではなくて。そんな母に対する恋愛感情がだんだんと深まっていった。すると、どうだろう。二人は互いに向かい合うかのように見つめ合う。モトオはあの時に目にした一枚の幼かった頃の母の写真のことを思い出すと。「かあちゃん。」「何なの。」「2カ月前のことだけど。」「ええ、2カ月前のことって。いったいどうしたん。」「僕はあの時に初めて一枚の写真を見させてもらったよ。」「いったい何の写真なの。ウフフフフ。」「かあちゃんが幼かった頃の写真のことだけどね。」「ああ、そのことを言いたかったの。」「そうだよ。ところで、かあちゃんは幼かった頃どんな子だったの。大人しいほうだったの。」「いいや、このかあちゃんはあまりにもお転婆だったの。ウフフフフ。」「やっぱし、そうだったんだ。」「ところで、幼かった頃のあたしがどんな感じでその写真に写っていたの。」
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