少し早目のお昼を摂って二人で家を出ました。
坂井さんの家まで1時間ほど、無言になりがちでした。
それでも昨夜あんなに愛された甘い余韻が身体に残っています。
電車の中で涼次さんの手をそっと握ると、優しく握り返してくれます。
このまま二人でどこかに行こうって言われたら、どんなに幸せでしょうか。
坂井さんのお宅は駅から10分ほど、通りから少し奥まった静かな場所にありました。
立派な門があり、玄関まで敷石伝いに植え込みがきれいに手入れされて、ところどころにガーデンライトがあります。
お宅は古くはありますが、きれいに掃除の行き届いた家というよりもお屋敷といった風情の大きな日本建築でした。
呼び鈴を押すとすぐに戸が開いてお二人に出迎えられました。
緊張しながら「今日はお招きに預かり、ありがとうございます」とご挨拶すると、孝雄さんが「いえいえ、こちらこそ遠くまでお運びいただいてありがとうございます」と、高校生とは思えない卒のないご挨拶をなさいました。
綾香さんは終始孝雄さんの斜め後ろで控えめに微笑んでいらっしゃいます。
靴を脱いで上がると綾香さんがさっと靴を揃えてくださいました。
お庭の見える廊下を歩いてリビングに通されました。
私、今日このお屋敷で孝雄さんに抱かれるのです。
そう思うとまた緊張が高まります。
リビングは、元は和室だったところを洋室に改装したらしく、フローリングにカーペットが敷かれているけれど廊下側は雪見の障子になっている変わった造りでした。
私と涼次さんに奥側の長ソファを勧めて孝雄さんは
廊下側のソファに座りました。
部屋の隅に用意されていたセットで綾香さんがお茶を淹れてくださいました。
そして綾香さんは孝雄さんの隣のソファではなく、孝雄さんの脇の床に正座なさいました。
私たちがハッとして驚いていると「綾香は父がいた頃からこのようにしていたんです」と孝雄さんがおっしゃいました。
大きなお屋敷の美しい奥様がこのように控えめに躾けられていることに私も涼次さんも驚いていました。
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