十二月一日。この日の夕食には、珍しく父と母、そして僕の三人。家族全員が揃っていた。
父は、僕と母を見て、『なんや、それは?』と不思議そうな顔をしている。
それもそのはず、二人は同じシャツを身につけていたのだ。シャツの胸元にはあのオンラインゲームのロゴ。
そして、『1th』と書かれている。そう、明日がこのゲームが発売をされた日。
今夜の深夜零時を過ぎれば、ちょうど一周年を迎える記念日だったんです。
完全にオンゲーにハマっていた僕と母は記念シャツを購入をして、この日に備えてるって感じです。
母が『なぁぁ~?』と僕に言えば、僕も『なぁぁ~?』と母へと返す。意味の分からない父は、僕たちを相手にもしませんでした。
深夜零時の盛り上がりはとても凄くて、ゲーム内ではみんなが大はしゃぎ。
僕も母も花火をあげたりして、そのノリに乗っかります。
一年間遊んで来たプレイヤーにとっては、『やって来て良かった。』と再認識をさせられる、そんな特別な時間でした。
約一時間くらいが経つと、流石にその盛り上がりも一段落を迎えます。
集まっていたプレイヤーは散り始め、やっといつものゲームへと変わります。宴は終わりました。
それは母も同じでした。『これからあそこへ行ってみる?』と誘いましたが、『いい、今日は寝るわぁ。』と断られました。
今晩は、珍しく夜更かしはしないみたいです。残念…。
『おやすみぃ~。』と母が居なくなり、しばらくはゲームをしていた僕も、今夜はこのまま寝ることにします。
いつも母と遊んでいるので、なんか張り合いがなくなった感じです。また明日、戦士『母』と遊ぶことにします。
ゲーム内の『エミマル』は大柄な身体でスリム。胸もボンと飛び出しています。年齢は20歳くらいでしょうか。顔はもちろん美形。
当然、それは設定で作られたもので、本当の母『絵美』とは大違い。
年齢は49歳ですし、大柄は同じでもスリムではなく、少し横に広いです。顔はそこそこですが、最近老眼鏡を掛け始めました。
老眼鏡を掛けた戦士です。それでも気の強さは戦士向きで、気の小さな弱者の父にはめっぽう強い。それが僕の母の『絵美』です。
時刻は深夜一時過ぎ。僕の部屋をあとにした母にとっては、まだお早い就寝時間帯です。
それほど、最近の夜更かしは過ぎていました。
そんな母でしたが、その夜は自室には戻りませんでした。母が向かったのは、もう寝てるであろう父の部屋。
そんな父もこの夜に関しては、まだ眠ってはいなかったのです。
『将太は~?』と聞く父に、『ん~?まだゲームやってるわぁ~。』と答える母。
しかし、僕のことなど気にすることもなく、パジャマを脱いで下着姿となった母は、父のいる布団の中へと入って行くのでした。
十二月二日はあのオンラインゲームが発売をされた記念日。
その前日である十二月一日は、僕も知りませんでしたが、父と母の結婚記念日でした。
残念ながら、少し時間は過ぎてしまいましたが、父と母二人にとっては、この日が大事な記念日であることには代わりありません。
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