★ カミングアウト!
ひかるの母:知佳がその日、いつものように16時過ぎの帰宅だった。
「ただいまぁ~」...疲れもあってか、だるい声が玄関に響く。部屋にいるひかるは、緊張をかくせない様子でたたずんでいた。
母の足音がひかるの部屋の前でとまった。
「ひかる~、具合はどう?病院いった?」...知佳の問いにひかるの返答はなかった。
「入るわよ」...そう言い、ゆっくりドアを開け、知佳はひかるの部屋に入っていった。
(えっ、誰?ひかるはドコ?)
見知らぬ女の子が息子の部屋にいることで、かなり動揺した知佳であった。
「あなた、誰?誰なの??...ひかるの部屋で何してんの?...ひかるはドコ?」
知佳の複雑な表情を目の当たりにし、半ば憤りのこもる母の態度を受けながらも、ひかるはクチを開いた。
「お母さん! 僕はひかるだよ。ひかるなんだ!」...知佳に懸命にうったえるひかるだった。
「朝起きたら、女の子になっていたんだ!」
(この娘は何、何言ってんの?...明らかに嘘言ってるし...何かやましいことでもあるのかしら?)
でも明らかな嘘だと確信した知佳は、なるべく早く【彼女の嘘】の虚偽を露呈させ、彼女の目的意図と息子の行方を確認すべきだと考えたの
だった。少し怒った口調で…。
「嘘、嘘おっしゃい!ひかるなら、昔からそんな嘘は突いたりしないわ!!どうしてそんな嘘つくの?」
母の言葉に、ひるむひかる。彼自身、母がそう思うのも無理はないと思った…。
(でも、どうしよう?どうしたらボクだと信じてもらえる?)...母の問いかけが頭の中を駆けていく。
(僕が、ボク?昔から...嘘は...嘘をつく?...昔!?...)
母:知佳の問いかけから、ひかるはとっさにあるひらめきが生まれたのだった。
息子ひかる:「お母さん!んじゃお母さんと僕が昔あった出来事を話してみて!」
「お母さんとボクしか知らないことを僕が知っていたら、僕がひかるだとわかってくれるよね」
「お母さんが質問して、僕が答えていく...って感じで!」
知佳は、その提案に乗ろうと思った。自分から虚偽を露呈させるには都合がいいと考えたからだった。
知佳の質問が始まり、質問が進むにつれ、母知佳の顔色は、急速に変わっていく。明らかな動揺もあってか、呼吸も次第に荒くなっていった。
10問目が過ぎたあたりで、ひかるを抱きしめる知佳の姿があった。なぜか涙ぐんでいる。
母知佳:「...ひかる、ごめんね!...ひかるなのね!!。お母さん、悪かったわ。...でも、どうして?」
確かに彼女の質問に、的確に答え、そればかりか、母自身のあいまいな記憶を的確に修正させられるところもあって、彼女は【彼女】を
ひかる本人だと認識したのだった。
その後、2人は話し合い、結局今後のことは家族全員で話し合うこととなった。
その日の夜、帰宅した父:誠、姉:理沙を交えた家族会議は食事時間もままならぬほど長時間を究めた。結論から言うと
まずは、学校に連絡後、健康状態の確認、本人だという科学的医学的根拠に基づく確証、その後の身分保障保証の確立という
当面の目標が定められたのだった。最終的に元の男子に戻れる期待をその時少し抱けたひかるであった。安堵のため息が漏れた。
家族の想いはマチマチであったが、ひかるや母と姉以外、ひかるの父親たる誠の視線のなかに邪な気持ちが見え隠れしていることに
その時の家族は気付きもしなかった。ひかる自身、意識もしてなかった状況であった。
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