事件の全容が解明されたのは2週間後のことだった。新聞記事には小さく続報として報じられた。その裏には世間に公表すると残された関係者がどのようなバッシングを受けるかわからないといった配慮がなされていた。
「離婚で精神を病んだ母親が、担任の教師と関係を持った息子との将来を悲観し、まず教師を葬り、次に息子を刺した、最後に自分もリストを切りつけ命を終わらせた。検察は容疑者死亡のまま書類送検とし、捜査本部も解散となった」と記事が掲載された。二人の死亡者を出した学校もようやく日常を取り戻そうとしていた。
高田裕介のもとに警察から電話が入った。
「事件について申し上げておくことがございますので、本日来署いただけませんか」世話になった婦警の中山からだった。
「ええ、伺います」婦警は事件後、高田にふと漏らした
「あの時、私がなんらかの注意をしていれば、二人はこんなことには…」婦警は私服で警戒中の公園で親子ほど年の離れた女性と少年が仲睦まじく歩いているのを目撃し、淫行の恐れありと考え女性にコンタクトを取った。だが女性は自分たちは親子だと話し、少年と目元がそっくりであることから、婦警はそれ以上追及しなかったのだと言う
「それなら私も同罪です。二人の笑顔を遠くさら撮影していながら、二人に話かけることもせず、お似合いのカップルとしてそのままにしていた。あのアザレアの咲き乱れる公園で…」裕介は婦警に共感したいた。
「高田裕介さん、あなたは被害者に近しい存在であり、社会的地位もあることから、世間に口外しなことを条件に事件の全てをお話しします、よろしいですか」警察の応接室には結城・友田の両刑事と警察署長、婦警の中山が同席していた
「はい、口外は致しません」
「それでは、友田から説明いたします」事件直後からだいぶやつれた感じの女刑事が立ち上がった
「本件は、1件の殺人事件と無理〇〇事件にようるもので、容疑者は中野美佐子、事件当時はすでに離婚が成立していたので河合美佐子となります。被害者は〇害された島田莉穂と妊娠2か月だった彼女の胎児、美佐子の息子の中野貴教、そして自〇した美佐子は妊娠3か月だったので、その胎児となります」
「妊娠していたんですか…」裕介は口唇を噛んだ。すでに母と息子は男女の関係なっていた、そして裕介が一度でいいから見たいと願っていた情事のシーンは冷たくなった状態で裸で重なっていた二人を目撃することによって不本意ではあるが遂げられた
「続けてもよろしいですか」
「ええ、続けてください」
「この事件は物証が多く残されていました。それはなぜ美佐子が〇人と無理〇中を引き起こしたのか動機を探るのには充分でした。つまり、美佐子は遺書の代わりに物証を残したのです」
「どんなものがあったのでしょう」
「まずは美佐子のノートPCです。これは島田莉穂のマンションで見つかっています。まずはハードディスクに残されていた、息子への盗聴記録です」
「盗聴をしていたんですか?」
「ええ、息子を他の女に渡したくない一心からだったのでしょう、犯行の3か月前からボイスレコーダーを息子のバッグか何かに忍ばせておいたのでしょう、学校の様子が録音されたものがほとんどだったのですが、島田莉穂殺害の前日の盗聴データに残っていた莉穂と貴教の会話が〇害のきっかけになったようです」
「どのような内容だったのでしょうか」
「大筋を申し上げますと、莉穂と貴教の関係は彼が中学1年の時から始まっていました。その思い出を語りながら、女性たちを妊娠させたことをゲームに例えて話をしています」
「ゲームですか?」
「ええ、二人はもともとオンラインゲームで知り合っていた。偶然同じ中学校で出会い、二人の言い方をしますと、恋愛の経験値レベルを上げて行ったとなります。その実力を試すために、彼らはリアルワールドの難関ステージに挑んだと言っています」
「難関ステージですか?ちょっと理解に苦しみますが」
「若者独特の考え方です。難しければ難しいほど攻略の楽しみが大きいというのです」
「なるほで、そのステージとやらはどんなものだったんでしょう」
「あくまでも彼らの会話から推測していますが、第一ステージは「叔母」と言っており、第二ステージは「彼女の母」第三ステージは「実母」と言っています」
「それは、彼らのゲームにおけるターゲットだったのですか、私の妻や、内藤さんの奥さん、そして母親の美佐子が!」裕介は声を荒げていた
「残念ながら、恋愛と言うより、ゲームとしてそれぞれの女性と関係を持ったようなのです。そしてそのステージをクリアした先にあったのが、莉穂の妊娠と二人の結婚です」
「…」裕介は言葉を失っていた。14歳の少年と24歳の女教師、彼らの描いたシナリオはあまりにも残酷であったのだ…
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