「君には目の中に入れても痛くないほど可愛がっている甥っ子がいたね、貴教くんだったね」仙台への旅行を提案したのは高田裕介、美智子の夫でタカタ不動産の社長からだった。
「ええ、姉の子で、一人っ子なので弟のように可愛がっていました」
「彼の子種だったら君もあまり抵抗ないんじゃないかな」
「…」美智子が返事をできないでいると、裕介は美智子の顔を自分の正面に向け言い聞かせた
「私は君より長生きすることはない。残された君が寂しくないように、そして我が社が未来永劫受け継がれていくために、跡継ぎが必要なんだ。賢い君ならわかってくれるね」結婚する前に20年前に高熱を出し、無精子症になっていることを裕介は美智子に話をしていた。すでに還暦を超えた裕介にとって美智子の将来を案じてふたりは精子の提供を受けることを相談していたのだ。
「でも貴教は近親者です。病院を介して提供を受けることは…」
「わかっているよ。君がすべてを口外しないと約束できれば、ふたりの関係を認めよう」
「あなた」
「君の将来のためだ。彼には時期が来たら打ち明ければいいし、生まれてくる子供は私の子供として育てればいい」
「あなた、ありがとうございます」美智子は夫の胸に顔をうずめた。
ホテルのラウンジで貴教と美智子はティータイムを過ごした。
「もう一個ケーキ食べる?」
「うん」貴教のまだあどけなさが残る笑顔が美智子にはとても愛しかった。姉には申し訳ないが、どうしてもこの愛らしい甥っ子の子種が欲しいと美智子は切実に思っていた…
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