「美咲、何があったの」母の声がした
「マ・マ」美咲がかろうじて口にした近くにいた警官は婦人警官に交代し現場に入った
「お母さんですか?」婦人警官が尋ねた
「こちらのお宅の身内かたご存じでしょうか」
「ええ、タカタ不動産の社長さんの奥さんがこちらの奥さんの妹さんにあたります」
「タカタ不動産」婦人警官がスマホで検索する。
「タカタ不動産社長、高田裕介さんでよろしいでしょうか」緊迫した婦人警官の声からただ事ではないと久美子は悟った
「高田裕介社長さんお願いします。こちら埼玉県警〇〇署の中山と申します。緊急でお願いします」
「はい、高田です」電話口から裕介の声がした
「中野美佐子さん、貴教さんはご存じですか?」
「ええ、妻の姉と甥ですが」
「残念ですが、事件に巻き込まれたようです。ご本人確認をお願いしたいのですが」
「ええ、妻は妊娠9か月でして、私でも大丈夫でしょうでしょうか」
「はい、ご主人だけでお願いできますか、かなり凄惨な状況となっていますので」婦人警官の声を聴いて久美子はいてもたってもいられなかった
「婦警さん、わたしわかります。奥さんの顔も息子さんの顔も良く知ってますし」久美子は必死に婦人警官の腕を掴んだ
「ママ、だめ、行っちゃ」
「でも、美咲、ママならわかるから」
「それでは」婦人警官は久美子と中に入ろうとした
「ダメ~、ママには赤ちゃんがいるんだからー」美咲の決死の叫びに婦人警官と周りの警官も反応した
「奥さん、妊娠中ですか?」婦人警官が尋ねた
「ええ、三か月です」
「それではご遠慮願います」
「どうしてですか?」
「ママ、ノンは死んでるの」美咲が意を決して言った
「そんな、どうして」久美子は崩れ落ちた
「ここは私にまかせてください、救急車お願いします」救急隊が近づいてきた
「どうして、どうしてノンが」久美子の頬を涙がこぼれ落ちた
「ママ、大丈夫、ねえ、気を確かに持って」美咲が久美子の手を握った
「すこし落ち着くまで病院に行きましょう」婦人警官が優しく声をかけた。救急隊が担架に久美子を乗せようとする
「いや~、ノンに会わせて~」久美子が狂ったように叫びだした
「ママ、しっかりして」
「お願い、ノンに会わせて~」救急隊が両腕両脚を抑えて救急車へと運び込もうとする
「妊娠中なのでよろしくお願いします」婦警は救急隊に声をかけた
「痛い~」久美子が急にお腹を押さえた
「ママ、ママ、お願いお腹の赤ちゃんを助けて~」美咲が叫んだ
「わかりました、絶対に助けます」婦警は救急隊に合図をして久美子を救急車へと運んだ
「さあ、美咲さん、あなたも乗って、一緒に病院へ」
「はい、助けて、お腹の赤ちゃん絶対に助けて」少女は祈るように何度もつぶやいた。救急車が走り出した。久美子には酸素マスクがあてられ、お腹に毛布が掛けられ、救急隊がお腹をさすっている
「助けて、お願い、赤ちゃんを…」泣きだす少女を抱き寄せ婦人警官は囁く
「大丈夫、助かりますよ」
「お願い、お願い、大事な大事な赤ちゃんなの」
「命はとても大切です。私たちが全力で守りますから」震える美咲を婦人警官は優しく抱きしめた
「ノンの赤ちゃんなの…」弱々しい少女のつぶやきに婦人警官は耳を疑った…
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