起きて、ふすまを開けると、玄関の前のお風呂場のドアの明かりが点いていた。リビングを抜けて、近づいて行くと、話し声が聞こえた。湯船に二人で浸かっているようだ。
「ねえ」
「ん?」
「あなたに、話しておかなきゃいけないことがあるの」母の声が聞こえる。「私、前に一度結婚してたの」
僕の心臓は口から飛び出しそうだった。でも、見たことがない僕のお父さんと結婚していたんだと思った。その時、課長さんが聞いた。「サトルの父親?」
僕は一人で頷いた。ナイス!課長さん!
「ううん、違うの、そうじゃなくて‥」
「違う男か?」
「ビックリした?」
そりゃ、ビックリするよ。
「あのね」要するに、結婚して、生まれてきた子供が障害を持っていて、4歳で亡くなってしまったらしい。生まれてきた子が障害を持っていた為に、夫婦関係はダメになって、何度も離婚の話しが出た。子供が亡くなり、離婚した母は自暴自棄になって、男の人と関係を持ち、僕ができた。
「話さない方が良かった?」母の声「ごめんなさい。今まで黙っていて」
課長さんが、お湯で顔を拭っているような音が聞こえる。
「そうだったんだ」課長さんの声「じゃあ、子供を二人産んだんだ‥ふーん」
「もしも、あなたが気にいらないのなら‥」
「別れるのか?」
「それしかないでしょ」
二人の会話が途切れた。僕はお腹が痛くなってきて、そっとトイレに行った。
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