ファミマの明かりが見える頃、自分の呼吸の激しさに気がつきました。マンションの駐車場からここまで、ほぼ全力で走って来たのです。
駐車場に入り、店内の雑誌コーナーに目を向けたのは一瞬だけでした。駐車場の片隅に制服姿で立っている妹を見つけたからです。
僕はゼイゼイ言いながらも、『どうしたんや?』と愛美に声を掛けました。『サボり…。』、彼女はそう答えました。
しかし、その言葉にどこか安心を覚えるのです。落ち込んだ愛美ではなく、普段通りの妹に感じたからです。
『そうか。』と返事をし、『なんか買うか?』と聞くと、妹は素直に返事をしました。お店に入り、僕はキットカットとグミを買ってやるのです。
あれだけ走って来た道を、帰りはとてもゆっくりとした足取りで歩いて帰ります。『なにがあったんや?』と聞きたいところですが、それはしませんでした。
歩くスピードと同じように、ゆっくりとゆっくりなのです。
『ここ?』、マンションの部屋の前に立つと、愛美はそう聞いて来ました。『ここ。』と答え、初めて妹を部屋へと迎え入れます。
そして、この部屋を訪れた初めての女性となったのです。
リビングに座る妹に、僕は熱い紅茶を用意します。慣れない手付きながらも、出した紅茶に『ありがと。』とお礼を言われました。
そして、
『で、なにがあった?』
『サボり。』
『じゃあ、なんでサボった?』
『行きたくなかっただけ…。』
『じゃあ、なんで行きたくなかった?』
『なんとなく…。』
『そうか…。』
『うん…。』
『じゃあ、最後な?』
『うん…。』
『じゃあ、なんで俺にLINEで助け求めた?なにかあったから、助け求めて来たんだろ?』
そう言うと、紅茶のティーカップから手を離した愛美は、グーをした両手をスカートの上に置きます。そして、顔を下に向けて固まってしまうのです。
少し様子を見ていた僕でしたが、しばらくその状態から動こうとはしません。そして、『どうしたん?』と聞くと、
『お父さん…。』
と一言だけ話したのです。その言葉に、『どうした?怒られたか?』と聞き返してしまいます。しかしそれは、愛美とっては残酷な返しだったのてす。
彼女は身体を震わせ、呼吸も引きずり始めます。泣いた妹は何度も見ましたが、僕が泣かした記憶はほとんどありません。
対処に困り、僕はしばらく一人にしてやることを選択します。『まあ、ゆっくりしな。』と言い、キッチンへと離れるのでした。
冷蔵庫を開き、麦茶をコップにそそぎ始めた時でした。リビングにいる愛美から、信じられない言葉が飛んで来たのです。
『お父さんにレイプされた子供が、学校に行けるはずないやろぉ~!!』
涙ながらの妹の叫びなのに、僕は言葉を失いました。言葉の意味が理解が出来ず、頭の整理がつきません。
『レイプ?』『お父さん?』『妹と?』、たった3つのキーワードなのに、どうやってもうまく組合わさらないのです。
僕は妹のいるリビングに戻ります。頭の整理がつかないまま、ソファーに座った妹の姿だけを見つめるのでした。
※元投稿はこちら >>