夕凪、潮騒という名前の隣合った二つの部屋のドアを開け中へ入っていくと、純和風のオーソドックスな部屋、正面には大きな窓の向こうに真っ青な海が広がっていた。
縁側のドアを開けると隣の部屋と繋がっていて、二部屋が行き来できる造りだった。
ご家族なら自由に行き来できる部屋がいいと思ったので…との旅館の配慮だった。
{家族だと思われてたか!ハハハ!私はじいさん、弥生はばあさんか!ハハハ!}
〔ウフフ、いいですね!〕
【端から見たらそーなんですね。関係を知らないってのはなかなか面白いですねぇ】
{まったくだ!じゃあさっそく風呂に行こうか!な!}
〈お風呂~!〉
「行こ~!」
部屋の風呂セットをそれぞれ持ち、混浴露天風呂の脱衣場に行くと、先客がいる様だった。
【おっ?誰か入ってるなー】
「マジで!?入っていいんだよね?」
{そりゃ大丈夫だろう!向こうだって混浴だってわかって入ってるんだしな!}
〈マホなんか恥ずかしくなってきたかもー〉
▽ナナもー△
〔…私も…〕
{ハハハ!弥生もか!?}
〔…私だって女ですから。…知らない男の人に見られるのはやっぱり…〕
『そーですよシゲさん!ワタシだってやっぱ恥ずかしいですもん!』
{あぁ、すまんすまん、そりゃそうだよな!}
【じゃ先に男性陣が乗り込みますか!】
「オレいちばーん!」
▼あ!コウずるい!オレが先に行く!▲
息子とトウマくんはバッと服を脱ぐとタオル片手に露天風呂に競って入って行った。
私とシゲさんが後に続き、女性陣はその後ろに続くかたちになった。
露天風呂の中には20代半ばくらいの男女が肩を並べて湯に浸かっていた。
【こんにちは~】
{お邪魔しますよ~}
男子二人とオッサン二人が入って行くと、先客のカップルは一瞬驚き、ペコッと頭を下げると二人で見合ってしまった。
息子たちが入り、続いて私とシゲさんが入り、女性陣がぞろぞろと並んで歩いて来ると、カップルはそそくさとお湯からあがると軽く会釈をしながら出て行ってしまった。
{なんだぁ…意気地がないなぁ~、ハハハ!}
【ですねぇー、混浴だってわかってるのに】
「あの女の人のケツ見た?すっげ~プリプリしてたよな!」
▼な!すげ~な!▲
▽…コウ…?△
〈コウ…トウマ…?〉
仁王立ちで冷たい目で息子たちを上から見下ろす娘とナナちゃん。
▼あ…▲
「……すいません」
まるで調子に乗った夫を睨み付ける妻の構図がそこにあった。
{まぁまぁ、マホちゃん、ナナちゃん、そうピリピリしないで…なっ!温泉楽しもう!なっ!}
シゲさんも多少ビビりながら娘たちを落ち着かせようと頑張っていた。
それからしばらくみんなで広い露天風呂でのんびりとしていると、脱衣場のドアがガラッと開いて、50代くらいの男女二人が入ってきた。
→おや、何か賑やかですねぇ?
{こんにちは!お騒がせしてます}
→ご家族ですか?楽しそうですねぇ
少し話すと、混浴露天風呂とは知らずに来た夫婦で、二人とも混浴でも気にしないタイプらしくそのまま二人で入って来たとの事だった。
私たちの事も3世代の家族だと思ったらしく、仲がいいんですねぇと言う感じだった。
そうなると絡む事も躊躇してしまい、その場は普通に露天風呂を楽しんで出ることになった。
浴衣姿でゾロゾロと廊下を歩いていると、さっきの若い男の子がスッと近づいてきて小声で話しかけてきた。
→あの…そちらのグループは…どんな関係で…
{あぁ、私らはみんなオスとメスの関係ですよ!私らジジイもこの子ら若いのもね、ハハハ!}
→え…全員…ですか?
【まぁ驚かれますよね?】
『…こことここは、親子ですよ~』
→…マジですか…
【内緒でお願いしますねぇ】
→…はい…いや…でもさすがに…すいません…
さすがに息子や娘の見た目にビビったのか、若いカップルはそそくさと部屋に戻って行ってしまった。
{なんだ、結局ビビっって終わりかい。つまらんなぁ}
【まぁまぁ、普通に考えたら厄介な集まりですから無理もないですよ】
{それもそうか、ハハハ!}
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