山下は腰を上げると、『タック、帰ろ~?』と私に近づいて来ます。そして、『三島くん、戸締まりしてかえってなぁ~。』と彼に伝えるのです。
山下は、私の車に乗りました。『自分の車は~?壊れてないんやろ~?』と聞くと、『私が壊れてる…。』と言うのです。
『まあ、ええわ。明日の朝、送ってやるわぁ。』と言って、車を走らせました。すぐに『あんな子よねぇ…。』と彼女の口から、彼のことが出るのでした。
『なんで俺に電話してきた~?』
『暇そうだったし~。』
『そうか、ありがとなっ!』
『うーそ!タックなら、何とかしてくれると思ったからぁ~。』
『そうか。』
『何とかしてくれたやん…。』
『まあ、お前のこと好きやしなぁ~。』
『だったら、合ってたわ~。』
『なにがぁ~?』
『タック、絶対に私のこと好きだから、助けてくれるって。』
『そうか…。』
『好き。』と伝えたのに、彼女のふさけた会話でどこか掻き消されてしまいましたが、お互いもう子供ではありません。こんなものなのでしょう。
山下の家に向かいます。同じ南部小学校の校区なので、そう遠くはありません。それでも、彼女の家など知らない私は、『こんなに遠くか?』と感じます。
山道を上り、ようやく彼女の家へついたのです。
私は、降りる彼女に、『山下~?元気出せよ~?』と声を掛けます。『うん。ありがとー。』と言って、車を降りた彼女。
しかし、『あれ?携帯落ちてない?ないわ?』と言うのです。私は身を乗り出し、彼女の座っていた助手席に手を延ばして探します。
暗くて手探りで探しますが、どこにもありません。仕方なく、ルームライトのボタンに手を掛けます。
その時でした。助手席に置いた私の手に、彼女の手が乗ったのです。気がつけば、山下の身体は助手席に乗り込んで来ていて、私の頭に手を回しています。
『タック~っ!』と彼女に呼ばれたかと思うと、僕の視界は消え、変わりに彼女の唇が私の唇に触れました。それはほんの一瞬の出来事。
車の外に出た彼女は『ああ、こっちに携帯あったわぁ~。』と言って、ごまかすのでした。
『アゴの山下。』、そう呼ばれていた彼女。残念ですが、可愛さなどない女の子でした。それがどうでしょう。
ちゃんと女性を経験したアゴの山下は、この年になってでも、男心をくすぐることの出来る女性となっていたのです。
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