『電話してくるなら、9時以降にしてよ~。』とお願いしていた私。言った、次の日から携帯をそばに置き、彼女からの電話を待っているのです。
掛かって来るかも分からない電話を待ちながら、時間は過ぎていきます。それでも、『自分の彼女』からの電話を待っているようで、苦痛にはなりません。
この日も掛かって来なかった携帯を持ち、寂しげにベッドへと消えるのでした。
それ以降も、彼女からの電話は掛かって来ません。付き合っている訳でもないのですが、それが私には普通ではないのです。
『山下、はやく掛けてこいよぉ~。なにしてんのやぁ~!』と心の中どこかで叫んでいるのです。
その頃、同級生の山下典子はベッドの中にいました。両手を顔の前で組み、53歳のおばさんの寝顔を隠すように眠っていました。
この日、『あっ!タックに電話しなきゃ~。』とは、残念ながら彼女はこれっぽっちも考えてはいませんでした。
そして、眠っている彼女の手には、まだその上から別の手が握り締められていたのです。
それは男性の手、とても若くてたくましい手。同じ自動車工場で働く『三島』という29歳の男が、彼女を後ろから抱き締めて眠っているのです。
53歳の女友達と29歳の男。山下には25歳の子供がいますが、男と女の恋愛に年の差は関係ないのかも知れません。
数分前まで、『典子ぉ~!逝くぞ~!ええんかぁ~!』と年下の男に言われ、『出してぇ~!中に出してぇ~!』と年上の彼女がお願いをしていたのです。
二人の出会いは、約1年前にさかのぼります。ほぼ『引抜き』をされて、この会社に来たのが三島くんでした。
身体も大きく、知識はほぼ完璧。すぐに整備士としてこの会社に貢献を始めます。彼にはちゃんとした彼女がいました。
ただ女癖は悪く、若い事務員さん二人も彼に声を掛けられたこともあります。しかし、その二人の事務員さんだけでは済まなかったのです。
『女なんてセックスの道具。身体さえあれば、なんでもいい。』と思った彼は、山下にまで声を掛け始めるのでした。
『山下さぁ~ん。ごはん、おこってよぉ~。』、二人っきりの倉庫で彼に言われ、『まだ子供だから…。』と油断して、素直にオッケーしたのが間違いでした。
以降、三島くんは本命の彼女と、山下さんとの二股の恋愛を初めてしまうのです。くしくも、どちらも彼の好みの年上の女性。
しかし、残念ながら彼は山下の身体にしか興味はなく、彼女は甘い言葉に騙されて、彼が満足するために自分を犯しているなど考えもしてはいませんでした。
『タックさぁ?ごめん、わたし彼氏がいるんよぉ~。』、そう告げられ、私の久しぶりの甘い恋はは終わりました。
バツ1、息子二人は別居、53歳の年齢、それだけで山下をフリーだと決めつけていた自分が愚かでした。
いつまでも小学生の彼女ではないのです。あれから40年、ちゃんと恋愛も経験して、結婚もして、今の彼女があるのです。
その当たり前のことに、うかれた私は気がつかなかったのです。
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