工事を2週間後に控え、再び打合せが行われました。この日は先輩も出席をしていて、私は引き継ぎのためにこの場にいたのです。
これが終われば、『お役御免。』となります。
この日は、前回と違ってかなりの出席者がいました。打合せが終わると、ゾロソロと1階へ降りて来るのです。
階段を降りながら事務所を覗くと、一人の女性の目が私に向けられました。山下でした。しかし、大人数のため、彼女も気軽には寄って来られません。
そこで、参加していたみなさんを帰らせた後、私は再び事務所へと戻ります。前回のこともあり、従業員さんも、その辺は分かってくれているようです。
彼女が足早に事務所内を走り、私の元へとやって来てくれます。別にお互いに変な気を持っているわけではありません。
同級生ならではの繋がりみたいなもので、やはり顔を会わせれば一言くらいは話をしようとしてしまうのです。
『工事、タックがやるん~?』
『違うよ、俺は担当外。やるのは先輩。』
『そうなんやぁ~。タックがやるんかと思てたのに~。』
『そやな。そうや!山下、電話番号は~?』
『私、、080のぉ~…。』
と、山下と電話番号の交換をするのです。しかし、掛けるつもりもありません。社交辞令的なものです。僕はそう思っていました。
しかし、その電話番号の交換が、僕の気持ちを変化させていくことになるのです。
一人部屋に帰り、携帯を握っていました。彼女の番号を画面に出し、後はボタンを押すだけなのにそれが出来ません。掛ける理由がないからです。
10年以上ぶりに手に入れた、仕事以外での女性の電話番号。もちろん、仕事で出会ったのですが、やはり同級生というイメージが強い山下です。
仕事先のただの事務員とは、どこか思えないのです。そこで『SMS』電話番号でのメールを送ることにします。
これならば、『暇だったから、送ってみた。』で納得されるでしょうから。私は、とりあえず『なんかしてる~?』と送ってみることにします。
たった一言だけ、それでもなかなか送信ボタンを押せなかったのを覚えています。
数分後、『なにもしてないよ~。』と返信がありました。たった一言なのに、なぜか嬉しいのです。53のオヤジがときめいてしまっていたのです。
そんな二人のメールは続きます。
『そうか。なにかしろよ!』
『なにをよぉ~!タックはなにしてるの?』
『寝よる。』
『そうか。寝てるんや~。はやっ!』
『俺、早寝早起き。』
『健康的やねぇ~。けど、会えてよかったねぇ?』
『そやなぁ~。』
『そうそう!大久保くん、知ってる~?亡くなったんよぉ~。』
『えっ?いつ?どうして~?』
『夜中に坂から落ちて、そこに尖ったものがあって、そこで朝まで。』
『怖いなぁ~。』
とメールを打ち返した時でした。突然、私の携帯が鳴ります。画面には『同級生の山下さん(アゴ)』と表示をされています。
『もしもし~?どうしたん?』と聞くと、『メールめんどくさいから、もう電話したわ。』と言っていました。
亡くなった大久保の話に始まり、先生や同級生、いろんな話を彼女とするのです。それはかなりの時間となりました。
長電話好きのようで、途中で『電池が危ないわぁ。充電器とってくるから~。』と言う彼女に、とてもこちらから終わりを告げれそうにはありません。
結局、一時間近くの長電話となり、最後は『おやすみ~。ありがとう~。』と彼女から切りました。
ドッと疲れが出ましたが、ひさしぶりに女性と長く話を出来たことに、どこか満足もしている私でした。
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