居間には、すでにこたつが出されていました。テーブルにはビールが並べられ、お菓子とちょっとした料理も並んでいます。
彼女の対面に座り、私もこたつへと足を入れさせてもらいます。『なんか飲む?』と言われ、取り合えず缶ビールをもらいます。
一口飲んで分かるのです。『あっ!俺、もう運転出来んやん。』と。彼女もビールに口をつけ、手元にあったあるものをこたつの上に上げて来ます。
それは緑色のハードカバー。小学校の卒業アルバムでした。『俺、それもうないわぁ~。』と言うと、彼女は嬉しそうに開き始めるのです。
『6年2組。』、私と山下のクラスです。男ともかく、女は忘れている子が数名います。彼女は、私に見易いように更に差し出しました。
しかし、こたつの中心にあるため、どちらも不便です。そこで、『山下~?そっち行ってええかぁ~?』と聞いてみます。
彼女も躊躇はします。私も同じです。もうキスも済ませた、いい大人です。その二人が並んで座れば、どうなってもおかしくはありません。
山下は左にずれ、そこに私の入るスペースを作ります。そして、並んでアルバムを見るのです。『これ私~!』『これ俺~!』と言って、懐かしみます。
先生もいて、親友の香川もいて、私の好きだった牧野さんもそこにはいます。
私は、『俺、牧野さんが好きやったんよぉ~。』と白状をし、『山下は~?』と意地悪な質問をしてみます。
もう、40年も前の話です。恥ずかしさなどありません。『私はこの人っ!この人がずっと好きやった~。』と言って、ある人物を指をさします。
私は思わず、『はぁ~?』と言い、『そんなんええからほんとは誰やったん?』と聞き直します。
山下は『だから、この人やってぇ~!私、タックがずっと好きやったんよぉ~。』とまさかの私だったのです。
『うそやろ?』、『ほんと。』、『ほんとにほんと?』、『ほんと。』とそれが何度も繰り返されるのでした。
最初は冗談だと思っていましたが、山下の真剣さを見たら、どうも本当のようです。山下は、『タックのこと、好きやったんやから~。』と何度も言います。
私は山下の写真に指をさし、『ほんとはこの子が好きやった!』と言いますが、『違うやろ~!牧野さんやろ~。』と言われてしまいます。
私は初めての山下の肩に手を触れました。私よりも20センチ近く身長の低い彼女の両肩に手を置き、『そうや~。牧野さんが好きやったよ~。』と伝えます。
しかし、『けど、今は絶対にこっち~!こっちが好き~!』と言って、小さな彼女に頬を寄せます。
彼女が振り向くと、自然に唇が重なりました。彼女の身体は重い僕に押されて、絨毯の床へと倒れて行くのでした。
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