その日の朝のこと。
「今日は午後からお客さんがみえるから、学校が終わったらどこかで遊んでらっしゃい。はい、これ。お小遣い」
玲子は息子の智樹に3千円を渡した。
『うん、、ありがと』
中学生の智樹にとって3千円はそこそこの額だった。しかし彼はどことなく申し訳なさそうに受け取る。
「夕方まで帰ってきちゃダメよ、いいわね?」
『うん、分かってるって』
また今日もか...
智樹はそう心の中で呟いた。
一昨日もそうだったし、先週もほとんど毎日同じように言われた。智樹はなぜそんなにたくさんの客が母を訪ねて来るのか分からなかった。それで以前、玲子に聞いたことがあった。
『母さんのお客さんて、何の人?』
「ん? そうね、仕事の人よ」
そう答えただけで、あとは何も教えてくれなかった。
智樹は学校帰り寄り道をしてから帰る。近所のゲームセンターの店員とも顔馴染みになったし、少しワルそうな高校生達のグループにも入れてもらった。毎回渡される3千円の小遣いは使い切れないときもあった。そんなときはその高校生達に渡していた。
『よぉ、トモ、おつかれ』
『なぁ、今日も頼むよぉ(指でコインの形をつくる)』
『はい、、コレ、使ってください』
『さすが俺らのトモ様、いつも悪りぃな 笑』
カツアゲなんかじゃない、自分でそうしてるんだ、と自分に言い聞かせた。そんな寄り道も何度も続くとさすがに嫌気がさしてくる。夕方にはまだ早いが、やることもない彼はゲームセンターを出て家に向かって歩き始めた。
途中、家のすぐ近くの道で大柄な中年オヤジとすれ違った。智樹の家は袋小路の先にある。住人以外の人間はほとんど来ないはず。
彼は首を傾げつつ家に入った。
続く
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