エレベーターが開きました。階数のボタンを押したのは母です。そこは少し落ち着いた風で、衣服売場なのが分かります。
流石に母も、若者で溢れるモール街の方へは行きにくいようです。母はいつものクセなのか、『シャツとパンツ買おうか?』と僕に聞きます。
しかし、『アホか~?デートしに来てるんやろ?』と言うと、『そうやなぁ。』と自分が間違ったことを恥じるのでした。
『なんか買おう。奢るから。』と母に言います。『欲しいものないよ。』と言われますが、『服見に行こう。』と連れ出します。
よく考えれば、洋服ならモール街の方がありそうなものですが、その時の僕にはそんな余裕がなかったのです。
母の手を引き、遠くに見えている婦人用の衣服コーナーを目指します。
母の手を引いて歩くなど、僕の記憶にはありません。ちゃんとエスコートしながら、引けている自分に少し驚いてしまいます。
しかしそれよりも、母の変化が気になりました。楽しくないのか、恥ずかしいのか、どこか浮かない顔をしているのです。
婦人用のコーナーに入りました。僕と手を離した母は、普段通りの買い物なのか、洋服を手に取り始めます。
母が自分の服を選んでいる姿。考えてみると、見たことがありませんでした。僕の着るものを選ぶ姿は何度も見ているのに。新しい発見です。
予想通りと言いますか、散々服を見ていた母は『あまりいいものないわ。』と僕に言って来ます。僕に、無駄なお金を使わせたくないのだと思います。
その代わりに、母が求めてきたのはアクセサリーでした。それもネックレスです。探している目は輝いていて、衣服よりもこっちだったようです。
レジに向かい、僕の財布の中から2万円が出ていきます。母は隣で申し訳なさそうにして立っていますが、店員さんに『包装はいいです。』と言っていました。
エスカレーター付近に置いてあるイスに腰掛け、母はつけていたネックレスを外し始めます。そして、すぐに箱から買ったばかりのネックレス取り出すのです。
母の両手に持たれ、ネックレスが広がります。僕がすぐに『つけるわ。』と言って受け取り、母の背後に回ります。母が髪を持ち上げました。
そこには、母の着こなし方なのか、羽織着もワンピースも少し後ろに垂れ下がり、母の首とうなじがハッキリと見えています。
今年51歳になる母。やはり、その肌に年輪を感じるのです。顔は化粧で隠せても、見えない部分はどうしても隠しきれないのです。
母の胸元にネックレスが垂れ下がりました。僕の手はすぐにネックレスを取り付けれたのですが、その手はまだ母のうなじに触れていました。
その手は、母が再び髪を降ろしても離れることはなく、『ちょっと~。こそばゆいわぁ~。』と言われてようやく離れるのでした。
大人になって、初めて触れた母の隠れていた部分。触れた時、『触りたい。』と感情が芽生えてしまい、止まらなかったのです。
『モール街でも行く?』、僕の言葉に母は立ち上がりました。そちらに向かって歩き始めますが、段々と人の数が増えていきます。
入る頃には、あまりの人の多さに躊躇してしまうほど。日曜日のお昼です。カップルや家族連れが多く、これは仕方がありません。
再び、母と手が繋がれました。歩き始めると、対面する人はとても多いのですが、意外と歩けるスペースがあることに気がつきます。
僕は母と手を離し、その手を母の腰へと持って行きました。腰に回した手でグッと僕に引き寄せるのです。母は何かを言ったようでした。
しかし、それはかき消されてしまい、僕の耳には届きません。それどころか、回した手は腰からお尻の方にまで落ち、ワンピースの上から母のお尻を掴みます。
『もお~!』、ようやく聞こえて来たのは、母の嫌がる声。その声とともに、母の手がお尻を触っている僕の手を叩きます。
『どさくさにまぎれて、そんなことせんのよぉ~。』と更に僕に言いました。きっと母はかなりの大きな声を出して、それを言っています。
ほとんど、誰の耳にも届かないのを分かっているからでしょう。
エスカレーターを降りて、僕と母はフードコートへと向かいます。1時をとっくに過ぎているので、少しは人も少ないでしょう。
それでも人は多く、母はすぐに『トイレ。』と言って向かいました。
パーキングからそんなに時間も経っていないのにトイレに行ったのは、やはり身体に触れてきた僕を警戒してのことでしょうか。
母が、トイレから戻って来ました。『なにか食べようか?』と言って来たので、入ったのは洋食屋でした。バイキング形式で、好きなものを食べられそうです。
僕は適当にお皿に盛り付け、母の帰りを待ちます。母のお皿には、サラダ系のヘルシーなものが多く乗っていました。僕の肉肉肉とは大違いです。
たまたま空いた席が、個室のような作りたったので、他の客の視線も気にせずに食べることが出来ました。
そこで、母が『お尻さわったやろ~?』と僕に言って来ました。『デカかったわ。』と言うと、『デコないわぁ~。』と突っ込まれます。
本当はなにか言いたげだった母も、僕のこの一言で怒るのをやめたようです。雰囲気を壊したくなかったのでしょう。
それでも、『勝手に触らんとって。』と注意とも取れる言葉は残して行くのでした。
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