カオリ「お客様ぁ~、先ずはそこにお座りになってぇ~」
彼をベッドへ座る様に促す彼女は、飽くまでも泡姫である自分を貫き通す。
そんな彼女を見て、彼は大いに不審に思う。
英樹(お母さん・・どうしちゃったんだろ?)
(まさか!!・・本当に別人、とか???)
(いや、まさか!!)
(この声と顔かたちは、どう見たって?・・)
彼が混乱の極致を彷徨っていると、彼女が湯船のお湯を張りながら彼に向かって喋り始める。
カオリ「お客様ぁ?」
「お湯はぬるめの方がお好きかしら?」
英樹「はっ、はい!」
「ぬ、ぬるめ、で・・」
彼は次第に訳が分からなくなって仕舞う。
そしてそんな彼を他所に、彼女は風呂場から上がって彼へと近付いて来る。
カオリ「改めまして、カオリと申します!」
「あれ?・・私、お客様と何処かで
お会いした事が有る様な無い様な?・・」
英樹「・・・・・(ガックリ!)」
カオリ「え~っと、何処だったかなぁ~?」
彼女のおとぼけ振りに彼の瞳はグルグルと廻っている。
カオリ「あっ!そう云えば!!」
「近所に若くて美人の未亡人が居ましてね!」
「その家に貴方みたいなカワイイ男の子が居たっけ?」
「それと・・・そうそう!」
「分かった、分かったが口癖の子!!」
彼は彼女のキツ過ぎる皮肉が胸に突き刺さる。
カオリ「その女の人、働き者で美人で
息子の事を精一杯愛してるって云ってたわ?!!」
「あらっ?・・もしかして貴方、ご本人?・・」
母親の厳しい問い掛けに彼のスケベ心は一気に萎んで行く。
カオリ「えっ?・・あのぅ~、どうなされたの?」
彼女が息子を充分に愛している事だけは分かったが、彼にとってその後が誠に頂けなかった。
カオリ「全く!!・・受験も控えてるって云うのに
こんな処に迄来て、何を考えているのかしら?」
「それに・・一体、どこでどうやって私が
ここに居る事を調べたんだろうか?・・・」
「ねえ?・・そう思いません?!!」
「お・きゃ・く・さ・ま?!!」
彼女の問いに対して彼は何の反論も出来なかった。
カオリ「いつも一人で何をしているのかと思ってたら?・・」
「勉強もしないで風俗の研究でもしていたの?」
英樹「ぅっ?!!・・・くぅっ!!(苦)」
彼は己の情けなさと彼女に対する複雑な感情が頭の中で入り乱れて、思わず拳を強く握り締めて行く。
カオリ「・・・・・」
「ふうっ!!(諦)・・もう、いいかな?・・」
「・・そうね! 誰しもが気の迷いで、道を踏み外す事って・・・」
「ありがち、だもんね!」
「残りのお金は私が払っとくから、貴方は直ぐにここから・・」
彼女がそこ迄言い掛けると、彼がいきなり口を開き始める。
英樹「僕は・・あっ!いや、俺は・・」
彼の言葉を聞いて彼女も反応をする。
カオリ「・・俺は?・・」
英樹「俺は・・・」
「俺は貴女の言う様な人とは関係がありません!!」
カオリ「はぁ??? 関係が・・無い?!!」
英樹「何か・・人違いじゃないんですか?」
「俺は只の客ですよ?!!」
カオリ「只のお客さん?・・って、あんた、何言ってんの?!!」
英樹「困った人だなあ~?」
「言い掛かり、ですよ?!!」
二人は互いの顔を見つめながら、一歩も引く構えを見せなかった。
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