英樹「お母さ~ん!!」
「タクシー来たよー、早くしてー!!」
彼女は今日と云う日の為に奮発をして、家からタクシーで店に乗り付ける事にした。
レイコ「ええっ?!!もう来たの~?!!」
「まずいっ!!・・急がなきゃ、急がなきゃ!!」
「ねえ、英樹ぃ~? ちょっと待ってて~!!」
彼女は何やら支度の最中である。
そんな慌ただしい雰囲気のまま、二人は車に乗り込んだ。
英樹「ねえ、お母さん?」
「これから何処に行くの?」
彼女は予めタクシー会社に行き先を告げている。
レイコ「それは着いてからのお楽しみ~!!」
英樹「なにそれ?・・」
それぞれの思惑を乗せたタクシーは快調に道程を飛ばして行く。
すると彼の目には、以前見た事の有る風景が次々と飛び込んで来た。
英樹「・・ここって?・・」
「お母さん?・・この先には?」
レイコ「そうよ~!!やっと分かったかなぁ~?」
二人を乗せたタクシーは見覚えの有る店の前で止まった。
レイコ「さあ!!着いたわ!!」
「・・・・・」
「じゃあ、行きましょっか?・・ねっ?!!」
英樹「ええっ?!! い、い、いっ、行くって・・この店に?!!」
彼はいきなりの展開にしどろもどろになる。
レイコ「そりゃそうよ!!」
「わざわざここまで来て他に何の用が有るって云うの?」
英樹「・・いやっ?・・でも・・しかし・・」
戸惑う彼の腕を無理矢理に引っ張って、彼女はスイスイと店の中に吸い込まれて行く。
ボーイ「いらっしゃいませ」
「ようこそ、ミストラルへ・・って?」
「あっ?!・・カオリ、様?・・ですね?」
レイコ「や~ね~!!田中くんったら!!」
「妙にかしこまっちゃって~!!」
「いつもの”カオリさん“でいいのにぃ~」
彼は照れ笑いをしながら、なるべく英樹と目を合わせない様にして二人を応接室へと案内する。
するとそこへ件の山本が現れた。
山本「ようこそ澤村様、全ての用意は整って御座います」
「時間内の大事な御遊戯が、つつがなく取り行われる事を
切にお祈り申し上げます」
彼は片膝を付いたまま彼女に対して深くお辞儀をすると、ゆっくりとその顔を上げて彼女と視線を合わせて行く。
レイコ「もうっ、やだぁ~!! 山本さんまで~!!」
「他人行儀にも程があるわ!!」
(支配人さんには全部バレちゃってるみたいね?)
(英樹の事・・ちゃ~んと息子だって認識してる)
(ごめんなさい!)
(変な事に巻き込んじゃって・・)
(親子で愛し合うなんて・・気味悪い、でしょ?)
山本「いえいえ、こちらも商売でございます」
(レイコさん!)
(短い間でしたけれど、楽しかったですね!)
(どの様な形で在れ、この愛が成就する事を
心から願っておりますよ!)
(どうか、お幸せに!)
彼女と山本は互いに目と目で語り合って、一切の不必要な言葉を慎んでいる。
そして山本はチラッと英樹の顔を一瞥すると、二人を”ひと時だけの愛有る巣“へといざなって行く。
山本「さあ、どうぞ!!」
「奥の方へ!!」
レイコ「本当にありがとう!」
「支配人!!」
英樹「失礼します!」
ペコっと頭を下げた英樹と腕を組んで、彼女は乗り慣れたエレベーターへと歩んで行った。
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