その日も、会長の家を訪れていた母でしたが、その帰りは普段よりもとても早いものでした。
20分ほど前に、僕が会長の家の玄関に、例のファイルを差し込んで来たからです。僕が差し込んだファイルは、かなりの音をたてて、落ちたものと思います。
二人が、中で何をしていたのかは知りませんが、きっと気づいたはずです。
帰ってきた母の顔色はとても悪く見えました。僕に何かを言える状態でもないようです。振り絞って出たのは、『ファイル届けてくれた?』でした。
『あ、うん。』と言うと、『ありがと。』とは言いますがやはり元気がない。他人の家に荷物を運んで、僕が黙って帰るはずがないのを知っているのです。
一時間くらいが経ったでしょうか。『みっちゃーん!ちょっと下りてきてぇー。』と母が一階から僕を呼びます。先程とは違い、いつもの元気な母の声でした。
下りていくと、母は玄関にいました。そこには、会長も立っています。『こんばんわやのー。』と僕に声を掛けました。
そして、『あのなぁ、お前のお母さんと付き合わせてもらってるんや。その辺、頼むわぁー。』と一言だけいうと、さっさと帰っていきました。
あっという間の出来事に、母も唖然としていました。きっと、会長が男らしくビシッと言ってくれるのだろうと期待していたに違いありません。
おかげで、母と僕との間には、変な溝が出来てしまうのでした。
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