第15話
明日香がこの家に来るのは2年ぶりくらいか
まだ小学生で、母親である冬香がインフルエンザにかかり、2週間ほど避難していた
「あまり変わってないね」
「まぁ、大人になったら、そうそう生活状況は変わらないからな」
「ふーん、そうなんだ」
「とりあえずママに泊まるって電話しとけよ」
「うん」と言って携帯を手に取り、電話をかけるが用件だけ言ってすぐに切った
「分かったってさ、あと、あきちゃんにお礼言っときなよって言ってた・・ありがとう」
「あぁ」と照れを隠して頷いた
ハンガーを渡して促すと、母からもらった新しいコートを脱ぎ、型崩れがしないよう注意しながら、勝手知ったるクローゼットを開け、しまい込んだ
伸びをしながら大きめのソファの端に座り、目の前のリモコンを手に取ってテレビをつける
「あきちゃん、ケーキ食べようよ」
「あぁ、紅茶とお茶とコーヒー、どれがいい?」
「あきちゃんは?」
「俺はコーヒーだな」
「じゃあ、明日香も」
「オーケー」
キッチンで湯を沸かしながら、黙ってテレビを見る明日香を横から眺めると、食事を与えられていない少年のようだった
薄く腰までまっすぐに伸びた背中、丸みを感じさせない胸、小枝のような手足、唇から溢れる歯は横から見ると更に飛び出しているように感じる
少し前まで食事をしていたのに、まだケーキを食べようとすることに、いったいどこに入るのか・・
冬香とは全く違う身体つきだ
あいつは中一には既に丸くなっていた
インスタントコーヒーを溶かし、明日香の目の前にフォークとともに置く
切り分けもせずに二人でつつき合いながら、山を崩していった
「あー、食った食った、もう入らねー」
「うん・・あ、そうだ、プレゼント開けていい」
「あぁ、気にいるか分からんけどな」
包み紙を丁寧に開け、中から箱の中から出てきたものは、ピンクゴールドの少し小さめな腕時計
「あ、時計・・ありがとう・・こんなの欲しかったんだ・・かわいい・・」
と、じっくり文字盤を見た後、左手首につけた
骨の形が浮き出るかのような細い細い手首には、小さい時計も大きく感じる
「似合うよ」
「ありがとう、あきちゃん・・」
ソファを背もたれにして床に座っていた俺に近づいて横に並び、肩に頭をもたれかけてくるので、肩に手を回し、頭を二度軽く叩いて、そのまま髪を撫でた
あまりにも細く、そして小さい・・
俺の腕の中にスッポリと収まったまま、静かな時間が過ぎる
「明日香は・・彼氏とか出来たか?」
「えっ!、なっ!、いっ、いないよっ!、何でっ?」
「あ、いや、中学生くらいなら、そろそろ出来たりするのかと思ってさ、クラスにもいるだろ?、付き合ってる奴」
「まぁ、中には・・」
「告白されたりは?、ってゆーか、好きな男子くらいいるだろ?」
「なっ、いっ!、いないよっ!」
と言って近くにあったクッションを抱きしめ、恥ずかしそうにしてる
「そっか、そのうち・・だな」
「・・・」
黙る明日香に「ん?、どうした?」
「・・出来ないよ、彼氏なんて」
「なんで?」
「明日香・・ブスだし・・嫌われてるし・・」
泣きそうに顔を歪めながら俯く
小さな頃からブスだと罵られ、おそらく学校でも汚いなどと陰口を叩かれ、付き合うどころか恋心さえも出すことも出来ないのだろう
家族として贔屓目に見ても決して可愛いとは言えなく、個性的などといった言葉も多感な少女は過敏に反応するだろう
何も言えず、両手でただ抱きしめるしかなかった
※元投稿はこちら >>