その週の水曜日の夜、知らない番号から着信があった。
留守電には
「中野と申します。山崎さん(これはトシエの姓、弘美さんの思い込み らしい)
先日は妻の弘美が
ムリにお願いしたようで恐縮です。
一度 ご連絡を頂けないでしょうか?…」
どうやら、弘美さんのご主人のようだ。
俺の方から、かけ直した。
山崎は、叔母さんである トシエの姓で、俺は 小川 である事。
土曜日なら行ける事。
を伝えた。
弘美さんのご主人からは、
①玄関~廊下~LDKの壁紙を張り替えたい事。
②網戸は出来れば 破れ難いモノに替えたい事。
③水回りの 目地を修理したい事。
主に、これ等が要望だった。
土曜日 14時の、約束をした。
ぼとなくして、また知らない番号から着信があった。
やはり と言うか、弘美さんだった。
あえて、そっけなく切った。
前乗りの つもりでいたが、トシエの家に着いたのは、11時を過ぎていた。
駐車場からトシエの携帯をならした。
呼び出そう と したが、おじさんの具合が あまり良くないらしい。
合鍵は渡されていたので、現場のチャイムを鳴らした。
玄関に入ると、トシエが抱きついてきた。
「お帰りなさい、旦那様」
「あの人、悪いと言う程では ないのですが、今日はしょくよくも無い みたいで。ゴメンなさい」
それでも、シャブって、唾をねだってきた。
寝室に おじさんを訪ねた。
介護用ベッドをビーチチェアの様にして、休んでいた。
軽く手をあげ
「いらっしゃい。今日は こんなんで失礼するよ。」
俺が挨拶するより早く、そぅ言われた。
テーブルに着くと、灰皿とアイス珈琲が
でてきた。
トシエ
「お昼、残り物でも良いですか?」
俺
「うん、さっきサービスエリアで食べてきたから、何でも。」
トシエ
「はい。」
ゆうべ の残り物だろう、何品か並べると またキッチンにもどった。
おじさんのベッドからは、キッチンの中までは見えないが、テーブルを回ってキッチンに向かう姿は見える。
しかたなくテーブルで持った。
ザルうどん が出てきた。
トシエが おじさんを誘ったが、やはり 欲しくないらしい。
おじさん
「ゴメンね、亮君。」
たべながら、トシエが切り出した。
「弘美さんの所、やって あげるんでしょ?。」
「弘美さんの所から帰ってきたら相談が有るんだけど」
口調が戻っている、何か大事な話? と思いながら。
俺
「ん、何?。後の方がいい?。」
トシエ
「ちょっとね。長くなりそぅだし」
俺
「そぅ。じゃぁ、帰ったら。」
14時丁度 エントランスで、弘美さんの部屋代番号を押した。
弘美さん
「お待ちしてました。どぅぞぉ。」
自動ドア が開いた。
玄関前で 夫婦で出迎えて くれた。
トシエは何度か、弘美さんのご主人と面識が有ったらしいが。
俺
「はじめまして、小川です」
ご主人
「はじめまして、中野です。」
「ウチのが思い込みが激しくて、先日は失礼しました。」
「どぉぞ、お上がり下さい。」
この後、トシエが話が有ると言うので、早々に本題に入った。
①材料費は原価で頂きたい事。
②網戸の張り替えで1日。
③水回りは、工事で1日、整地で1日、都合2日
は念のため、水回りは使えないと思っておいて ほしい事。
④壁紙の張り替えは、なにぶん素人なので 5日はみて欲しい事。
⑤明後日の月曜では無く、その次の月曜~の工事になる事。
⑥途中 既に約束している仕事もある事。
⑦なので、①~④の7日間では無く、2週間はみて欲しい事。
⑧なので、8月までズレ込んでしまう事。
等々を伝えた。
弘美さんのご主人からは、
8月10日頃まで終わらせて頂ければ有難い。
材料費だけ という訳には いかないので、金額を教えて欲しい。
旨の話があった。
ので、俺が冗談ぽく
「じゃぁ、お金の替わりに 夕飯をご馳走して頂ければ それで。」
すると、弘美さん
「えっ、そんなんで良いの?」
「1人で食べなくても良いんだ、たまにはトシエさんも! どぅかしら。」
「ねっ!あなた?」
ご主人
「夕飯だけって訳にも」
「ま、お礼はお礼として 考えさせて頂きます。」
「渡しは留守になりますが、どうぞ宜しくお願いします」
俺
「さっきの話で良ければ…」
俺はトシエの 話 が気になって、打合せ程度で早々に切り上げた。
家に帰って、煙草をつける間も無く、トシエがクチを開いた。
「あのね、結論から言うと、ここで一緒に生活して貰えないかなぁ、と思って。
俺
「どぅいぅ事?」
トシエ
「出来れば 食費程度は入れて欲しいけど」
「ここで寝泊まりして、ここから仕事に行って
」
「FAXは、後で亮君に選んでもらって。あ、お金はだすから」
俺
「なんで、また、??」
トシエが言うには、
おじさんは、良くない と言うより、悪いらしい。
(トシエの想像:半信半疑)
まだ、障害者の認定が下りない ので、月に2度の病院代も 結構かかる。
2人とも、免許も車も無く、往復タクシー。
車を買う予算もない。
教習所に通う程度のお金は有るが、年も年だし 時間が許すのか?(おじいさんの死?)
パート代では、病院代とデイケアの分で 殆んど消える。
食費や何かは貯金を切り崩してる。
タクシー だとか、買い物だのか、車に関する事だけでも、手伝って欲しい。
と、いった内容だった。
この頃の俺は、(1人親方」 なんて呼ばれ方をする、
建設関係の仕事をしていた。
FAXと電話で仕事の依頼を受け、道具を積んで現場に向かう。
例えば、東京駅に向かうとしよう。
俺の家~でも、トシエの家~でも、そぅ大差はない。
以前には、トシエの家の方が近いからと、何日か泊めて貰って通った事もあった。
FAXさえチェック出来れば、寝泊まりは何処でも構わない。
仕事の日時も、サラリーマンよりは融通がきく。
そんな、仕事をしていた。
そのへんを見越しての トシエの相談だった。
トシエ
「お姉さん(俺の母)には、私から事情を話すから」
「どぉかしら?」
俺
「じゃぁ、俺は このまま帰る 夕方には家に着くから、夜 お袋に電話してみて」
「俺は構わないし、お袋も 何が何でもダメだ とは言わないと思う」
「即答 は、おかしな話だから、2日3日考えたフリはふるけど」
「まずは、電話してみて」
トシエ
「…ありがとう。そぅする。お願いね。」
のちのち、思わぬ所から クレームを貰う事になるのだが、それは また別の機会に。
こぅして、弘美さんちの工事の時から、トシエとおじさんと俺 の3人の生活がはじまる。
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