もうすぐ瑞希くんが退院するのに
私の心は荒んでいる
色々な不安や葛藤がある
どうも仕事に身が入らない
仕事終わり
ため息をついて車に乗ろうとした時
「先生、飲みに行きましょう?」
「西野くん?」
呼び止められた
先生と呼ばれるのは久しい
「君が全部おごるならいいよ……」
前の事があるから普通なら断るんだけど
今は寂しさで私はおかしくなってる
飲み屋についた
「今日は飲もうかな」
「先生、酒ダメなんじゃ?」
「いいの、今日は」
「……」
注文してしばらく飲んだ
心地よい酔いに気分も少し晴れてきた
「瑞希くん明日退院なんだ……」
「良かったじゃないですか」
「どんな生活になるのかぁ、怖いなぁ」
グラスを持つ手がすこし震えてるのに自分でもすぐには気付かなかった
西野くんは何も言わない
「そろそろ行きましょうか」
「ん、お会計半分だすね」
「おごれって言ったじゃないですか」
「いい、けじめってやつ」
酔いが回ってよくわからない事言っちゃってる
車は代行に任せた
歩いて帰りたい気分だったから代行車には乗らずに帰る事に
西野くんはまだついてきてくれてる
「なんで帰らないんですか?」
「帰るの怖いもん」
「……」
「瑞希くん……もう元には戻らないのかな。そしたらどうしよう」
その悩みを吐くと
胸にナイフが刺さるように痛くてあまり言いたくなかった
ぶらぶら歩いていると
急に手を掴まれた
ホテル街……
ああ、もういいかな、別に
「俺と飲んで無事に帰れると思ったんですか?」
「思ってないよ、前例あるし」
「......今日は帰しません。いいですか?」
「抱きたいの?」
「もちろん、めちゃくちゃに」
「……いいよ、気持ちよくして」
西野くんはうなづいた
もういいか……もういいや
私は瑞希くんが記憶を失ってから悩んでた
彼は真っさらになった
昔の事、全部忘れた
母親にされた事も、つらい境遇も全部
私と近親相姦した罪の意識も
全部
私は彼が欲しい
けどまた、彼を引きづりこめる?
あの泥沼に落ちていくような罪の意識をまた味わわせられる?
最初の頃、瑞希くんと体を重ねるたびに幸福感と罪悪感がその日に何度も押し寄せる
とっても辛かった
こんなに辛い恋なんて
もう彼にはさせたくない
胡桃ちゃんは瑞希くんを好き
多分付き合って、結婚して、幸せな家庭を気づける
私とはできない事ができる
私はそれを阻止してまで彼を暗所に戻せる?
愛してる、瑞希くん
手放したくない。
手放しすくらいなら死んでしまいたい
でも愛してるからこそ言えない
貴方と愛しあった思い出も
誓いあった約束も
全部、全部
また君に泥水を飲ませるような事なんかできない
西野くんに手を引かれて
もう投げやりな自分にうんざりした
こんなに弱い女になっちゃったんだ
ホテルの部屋に入る
今から彼に抱かれる
きっとめちゃくちゃにされるから
気持ちよくされて紛らわしてほしい
西野くんは私の肩を掴んだ
私をまっすぐ見つめた
……
……
「有村彩花はそんなに弱っちい人間じゃないでしょうが!!」
「ひっ!?」
「貴女の真っ直ぐさはどこに行ったんですか!」
西野くんに怒鳴られた
これから抱かれるつもりだった気が吹っ飛んだ
「瑞希くんの記憶が無くなったのならもう一度好きにさせるくらいに考えるのが貴女でしょう?」
「そんなの、瑞希くんがまた罪悪感で、」
「それ以上の幸福があったでしょう?まさか、瑞希くんと愛しあった日々が間違いだったとでも?」
その言葉にハッとした
瑞希くんとの思い出は間違いじゃないもん
正しいとか悪いとかじゃない……
とりもどしたい
ワガママを貫いて
瑞希くんを愛したい
罪悪感がなによ
泥水を弟に飲ませるくらいなら私が全部飲んでやる
誰にも渡さない、渡さない!
「独占欲の塊の貴女らしくない」
「うっさいわ!///」
西野くんは苦笑して
そして優しく抱きしめてきた
「良かった、戻った」
「エッチは?」
「……しませんよ、貴女に大声で説教したかっただけです」
「バカ....///」
しばらく、話を聞いてくれた
私の心にある悩みを全て
西野くんは全て聞き終わってから静かにうなづいた
「瑞希くんが他の誰かを好きになった時は俺がいますよ」
「……バカ」
「その時は俺と結婚しましょう」
「……」
「先生?」
「ごめん」
「……俺は貴方が好きです。どんな距離でも愛しあえなくても」
「ごめん……」
「朝までそばにいます。明日からは瑞希くんと取り戻す努力をしてください」
「うん、ありがと」
西野くんに抱きしめられた
胡桃ちゃんも彼も、一途すぎる
「先生」
「あの、やっぱりエッチしましょっか?、、、」
「……」
「カッコつけたけどやっぱり抱きたいです、、」
「……」
「いい?」
「……」
…………
夜が開けた
私は大きく伸びてあくびをした
瑞希くん、君のために努力するよ
また、私に恋してもらえるように
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