どうやら、僕は記憶障害が起きたらしい
以前の事はさっぱり分からない……
「脳に傷は見られません。原因は不明です…一時的なものか、一生戻らないか、はっきりとは申しあげられません」
お医者さんからそう言われた
正直、よくわからない
前の僕と今の僕は別人みたいなもんだし
別に戻らなくてもいいような気もする
しばらくは入院だそうだ
僕のお姉さん…すごく綺麗な人なんだな
僕を見て微笑んだ
「瑞希くん、大丈夫」
「ありがとう……ございます」
「後でお父さんも来るからね」
「お母さんは?」
お姉さんは少し黙って
しばらく間があってから
「お母さんは亡くなったんだ」
「そうなんですか…」
悲しい気持ちは……湧いてこない
会った事もないお母さん
どんな人なんだろう
病室に入りしばらくお姉さんから以前の僕について聞いた
まるで他人の人生を聞いているような感覚だった
「友達とか、全然覚えてないや」
「大丈夫……また仲良くなればいい」
「恋人とかはいたんですか?」
お姉さんは固まった
さっき貴女は誰?と言った時と同じ
言葉が出ないようだ
すこしうつむいた
「いるよ…」
「ここに来るかな?」
「うん、来るよ、きっと来るから」
「そっか……」
お姉さん、なんで泣きそうな顔してるんだろう
僕の手を握ってうつむいてしまった
病室のドアが開いた
「瑞希っ!」
綺麗な女の子と男の人。
女の子は僕に抱きついてきた
この子が恋人?
「瑞希……」
「えっと、君は僕の恋人?」
「ひぇ?///」
女の子は顔を真っ赤にして
そっぽを向いた
「違う……私、胡桃」
「友達?」
「そんなとこ...」
男の人はお姉さんを見ている
お姉さんはうつむいたまま
男の人は悲しそうな顔をした
そして僕を見て頭を撫でてきた
「瑞希、俺はお前の父さんだぞ」
「あ……」
「焦らなくていい、ゆっくり休め」
「はい……」
なかなか覚え直すのも大変そうだなぁ
それから何人かお見舞いしに来てくれた
全員、名前と顔は覚えれた
お姉さんとお父さんはずっとそばにいてくれた
胡桃ちゃんもずっと
胡桃ちゃんがりんごを切って僕に差し出した
「瑞希、りんご」
「ん?」
「食べて!」
「わ、ありがとう。」
「ん……」
雑に切ってあるけど嬉しいな
胡桃ちゃん、可愛いな
喋り方カタコトっぽいし無愛想だけど
「ねぇ、胡桃ちゃん」
「ん?」
「綺麗だね。何歳?」
「....///」
「胡桃ちゃん?」
「24!あんたのいっこ上!」
「あ、僕23なんだ」
「ふんっ///」
夕方
胡桃ちゃんとお父さんは帰った
歩いて洗面所へ
鏡を見る
23か……なんか子供っぽい顔つき
「瑞希くん」
お姉さんが後ろにいた
そっと背中から抱きついてきた
妙な安心感に包まれる
「はやく元気になるといいね……」
「うん、ありがとう」
「私、帰らなきゃ」
「…ダメ」
「え?」
とっさに出たセリフが、それだった
なにワガママ言ってんだ
「あ、ごめん。大丈夫だから」
すぐに取り繕うけど
お姉さんはなんか嬉しそうな顔してる
綺麗な人だな、本当に
「また来るからね」
今度は正面から抱きしめられて
すごく心地よくなる
ずっとこうしていたい気持ちになる
ま、恋人じゃあるまいし
ダメだよね
「またね。お姉さん」
「うん」
さっき聞いたけど
僕とは6歳上らしい
ぜんっぜん見えない
超美人……
あんなお姉さんがいるなんて僕は幸せ者だったんだな
ちょっと昔の僕に嫉妬しつつ
記憶を取り戻せたらいいなって思った
すごく、すごく……早く
また元に戻れたら
いいな……
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