家とは逆の方向へ車を走らせている。固い表情のまま前を見据え何も話さない。先の信号が赤に変わる、ブレーキを踏むのも煩わしいのか手前で強く踏んで止まった。青に変わるまでチラチラとミラーで後ろを確認している。
信号が変わるとすぐにアクセルを踏み込む。
いつもは安全運転なのに乱暴に走らせている。スピードも出ている。
母の車は好きだ 母の運転する車に乗るのが好きだ その場にいるだけで心地よくさせてくれる。
今は違う 険しい顔で前をじっと見据えている。少しでもうごけば爆発しそうな空気が漂っている。
怒っている…
息子が下着泥棒で捕まり、交番に呼ばれ引き取り来た母
恥ずかしくて情けなくて怒りが込み上げてきて、誰かが 何かが 導火線に火を点けてくれるのをイライラしながら待っているようにカーブを曲がっていく。
いっその事 キンキン声でわめき散らし蔑んだ目で俺を見てくれた方が…何も話さず こちらに目を向けようともせずに、ただ真っ直ぐ前を見据えているよりかはすくわれる気がする。
車はバイパスに乗り 乱暴だった運転も落ち着き、母の細い指がCDの再生ボタンを押した。リズムのいいテンポで軽やかな曲が流れてきて まだ幼さの残る声の女性が元気に歌う。
母のお気に入りの歌手だ。
しばらくすると曲に合わせて歌う母の声がもれてきた。
小躍りするように楽しそうに運転する母の姿があった。
車の中がパッと明るくなる。
顔は前を向いているが、目だけはキョロキョロと周りを見渡し 何か見つけては微笑んでいる。いつも運転中は目だけキョロキョロと何かを探し 看板や車 街路樹など 流れていく景色の中で何かを見つけては クスクスと笑っている。
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