母がドアを拭きだした
半分閉めドアの後ろを拭く
ドアの後ろに隠れていた壁の汚れを見つけながら
キュッ キュッ と拭いている
突然
「キャッ…」
と声をあげた
俺が布団から出て母の肩を抱いたから
「なぁに~?起こしちゃった?オハヨッ♪」
また壁に向かい汚れを探す母の肩を回して、振り向かせ、唇を近づける。
怒ったような、戸惑っているような顔をしながら、まっすぐに見つめる母。
更に唇を近づけていくと、不意に母の顔が横を向いた。
怒ったような戸惑っているような顔をして
何も話さず少しも動かずに。
母の顎に手をかけ、こちらを向かせる
母は黙って表情を変えず、まっすぐに見つめている。
もう一度 唇を近づけていく。
強い意思でまた母が横を向く。
その時 ドンドンドン と姉が上ってくる音がして、半分開いたドアの前で止まった。
俺はドアを見た。
ドアに隠れて姉の姿は見えない
すぐに足音は姉の部屋へ入り またすぐ出てきて
「遅刻!遅刻ぅ~!」
と言いながら ドンドンドン と降りて行った。
母を見る。
先程と同じように、怒ったような戸惑っているような顔をしながら、横を向いていた。
「…母さん」
母は身動きせず横を向いたまま言った。
「起きたなら、顔を洗ってらっしゃい…」
なんだか悲しくなり、母の肩から手を離し、ドアを開けたまま部屋を出た。
洗面所で顔を洗った。
いつもより、時間をかけて…
口をすすぎ戻ろうと思ったが、また鏡を見て、歯ブラシを手に取り、歯を磨いた。
いつもより長く…
階段を上がり 部屋の前に行くと、出るときに開けたままのドアが閉まっている。
母はキッチンの影にいたのだろうか?寝室へ行ったのだろうか?
ドアを カチャリ と開けた。
やっぱり母の姿は見えない。
部屋に入りドアを閉めた。
視界の隅に人影が佇んでいた。
部屋を出た時と同じように、そこに立っていた母が手を伸ばし、俺の腕を引き寄せ、背伸びをしてキスをした。
「母さんにだって、心の準備が必要なの」
そう言って背伸びをして、 また唇に触れた。
俺の唇を唇で噛むように…。
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