騒がしい蝉の鳴き声と、容赦無い夏の日差しに起こされ、時計を見ると昼を大きく回っていた。
この部屋には不釣り合いな眩しさと陽気さが、開いたカーテンから遠慮なく入ってきている。
「…母さん」
俺は母さんのパンティを探した
布団の中 ベッドの下 テーブルの周り…
どこにも見当たらなかった。
カーテンが開いている
空っぽのゴミ箱
片付いたテーブル
…母さん? 部屋に来たみたいだ 持っていったのだろうか?
母を想いながら出したあのパンティを…
軽やかに階段を上る足音がして、ノックしながら母が部屋に入ってきた。
「起きた?」
ニッコリ笑いながら言う
「これから出掛けるけど、ちゃんとお昼食べてね!下に置いてあるから」
いつもだが…今日は特にウキウキした感じで続ける
「ちょっと、遅くなるけど夕飯用意してあるから、後はお姉ちゃんに作ってもらって」
少し間を置いて
「…それと」
ベッドの脇で中腰になり布団の中に何か入れ
嬉しそうに布団の上からそれを ポンポン と叩いた。
「たまには昼間にも外に出なさいね。」
「…暑そう」
イタズラな笑みを浮かべながら母が言う
「ものすごく暑くて外に出るの嫌になっちゃうわよ」
「…ダメじゃん」
母がチョコッと舌を出しフフフと笑った。
楽しそうな母の顔を見つめながら、俺は布団の中を手で探り、握りしめた布切れを母の前に差し出した。
「返す」
「えっ?」
「…返す」
「なんで?…いいのに」
下を向き本音の言葉を飲み込み
「また洗うの…悪いし」
パンティを握りしめた手を更につきだした。
戸惑いの顔を和らげて
「なんだ…大丈夫よ、母さん、炊事洗濯、好きなんだから」
とパンティを押し返す。
「でも、返す」
「いいよ…大丈夫だって」
和らいだ顔が曇りだし、また押し返す。
「…」
無言で差し出した手から、母の手の中に フワリ とパンティが落ちる
寂しそうな顔をして
「…本当に…いいのに…」
母が背中を向けドアへと遠ざかる。
俺も泣きそうになった
上手く思いを伝えられず、言葉に出来ず。
ドアを開けた母に、声を絞り出して言った。
「また洗うの悪いから…洗う前…のでいいよ…」
母は背中で聞いて、静かに出て行った。
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