俺の胸の中で わんわん泣いていた母も、今は小さな背中が規則正しいリズムで呼吸をしていた。
「ズズゥ」
鼻をすするとリズムが乱れるが すぐに一定のリズムに戻る。
「ズズゥ」
少し乱れて、一定になる。
小さな背中が膨らで萎んで…膨らんで萎んで…
「ジュルジュルルルルルー」
大きく、長く、鼻をすすったかと思うと、少し顔を浮かせ停止している。
背中の鼓動も、止まった。リズムが停止したまま動かない。
突然、バン! と手をついて頭を上げた。
俺の胸の辺りをマジマジと見ていたかと思うと
「まぁ、たいへん」
と呟き おもむろに後ろの座席に置いてあるティッシュを シュッ、シュッ、と取り二回畳んで俺の膝辺りに置き、またティッシュを取り、チーン チーン と鼻をかんだ。
俯きかげんのその顔は涙でグショグショになっている
俺は膝に置かれたティッシュで薄い化粧もまじってグショグショの顔を拭いてあげようと手を伸ばすと
俯きかげんのままティッシュで押さえた鼻を控えめにグニグニ動かしていた手が無言のまま、俺の胸を指差した。
シャツがグショグショだった。真ん中辺りで一筋テカっている。
「鼻水…つけちゃった」
照れたように母が言った。
涙の跡を拭くと薄く化粧の色も混じっている。
母は何度もティッシュを取っては顔を拭いたり鼻をかんだりしている。
俺は最後に結構ベットリついていた母の鼻水をそっと拭ってから小さく折り畳み左手でギュッと握りしめた。
母がティッシュを鼻に当てていた。
おれは気付かれないように、握りしめていた物を そっとズボンのポケットの中に仕舞い、さりげなく膝に手を置いた。
まるで その行為を見届けたように母が
「チーン」
と鼻をかんだ。
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