「…ゴメン」
そう言うしかなかった
ゴメン 何度も呟いた
「もう大丈夫、心配ない、たいした事じゃなくて良かったわ。」涙まみれの顔を手で拭いている。
「…ゴメン」
「大丈夫…もういいよ」
「うん…でもゴメン」
「もういいって…」
「ゴメン」
母はわざと怖い顔を作って睨んできた
「それ以上言ったらぁ おぉこぉるぅわぁよ~~」
しばし見つめあってから俺は本気で
「ごめんなさい」
と謝った
母は少しとまどった顔をしてから、呆れたように、諦めたように、表情を変え 不意に口を尖らせ
「なによ~!もうっ!するのは1回!謝るのも1回!ハイッ!終わり!」と大きな声で言った。俺は小さく はい と返事をした。
クスッと笑い
「よしよし、いい子ね」
と俺の頭を撫でようと体を近づけてきた。
「でも母さんが…」
その先は言えなかった。
母は俺の目を探るように見ている。
頭を撫でようと伸ばした手が宙に止まったまま。
「母さんが…なに?」
ひきつった顔で言葉の先を読み取ろうと目まぐるしく目を動かしている。
「俺…堪えられなかった…母さんに…あんな…」
母の目から涙が流れる
今度は、俺が優しく指で涙を拭いてあげる
湿った頬は柔らかく指に吸い付いてくる
ー何も言わないでー
そんなふうに見詰めてくる母の目から また涙が流れる
頭を撫でようと体を近づけた姿勢で止まっている母の顔がすごく近くにあった。きれいな肌の頬を見詰めながら、丁寧に拭き取っていく。
母が声を絞り出す
「…なにも」
俺は頷いた
「ほんとに…ほんとに…なにも…」
もう一度頷いた
「ほんとに…なにもなかっ…」
俺は母の口を手で覆い、頷いた
母の目からポロポロと涙がこぼれた。
「なにもなかった、はいっ!終わり!」
手の中の母の口元が笑った
「よしっ いい子だ」
頬が笑った
口を覆っていた手を離し、頭を撫でた。
一度、瞼を閉じ
「生意気ね!」と言ってから目が笑った
「貴史…少しだけ…許して」
と言い 俺の胸に飛び込むと、 わんわん 声をあげて泣き続けた。
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