まるで楽しいドライブを楽しんでいるかのように曲に合わせて僅かに聞こえる母の口ずさむ涼しい声、軽い音楽、流れる景色
気分は沈んでいるが、そんな空間に癒されていた。
トーンの違う異質な声が聞こえた気がするまでは…
歌詞の一部のようで聞き流しそうになったそのフレーズは母の声に似ていたが、まるで違うような とても嫌な感じがした。
「あの男……イヤらしい…」
少しだけ母の方へ顔を向けて様子を伺ったが、やはり母は、小躍りするように時に笑みを浮かべながら楽しそうに運転していた。
俺は何気なくハンドルを握る母の手をじっと眺めていた。
小さな手のさいでハンドルを大きく見せている。
その小さな手は 怯えるように 強く とても強く ハンドルを握りしめていた。
家から離れたーあの交番からも離れたー神社の駐車場に車を停めた。
わりと大きな神社で境内と他に二つ駐車場がある。
一番離れた駐車場だった。
俺は心の中で「身を清めたいな」と思ったが、母もなのだろうか…身を…身体を…
車を停めて、すぐサイドブレーキをかけライトを消しエンジンをきった。
闇が覆う
外灯も消えている暗い駐車場に停めた車の中を後方にポツンとある販売機の灯りだけがぼんやり母の姿を映し出した。
ハンドルを握りしめ頭を垂れている。
必死に耐えているのに漏れてしまうのか時折
「ウッ、…ウッ」と嗚咽が聞こえる。
泣いている
母さんが泣いている
とても悲しくなり
「…母さん」
と声をかけた。
一瞬動きが止まったが また
「う゛ぅっ」と声を出し頭をハンドルにつけ 静かに激しく嗚咽を続けた。
「…ゴメン」
嗚咽を続ける母
「…ゴメン」
嗚咽が止まり、呼吸を整えるように息をしてから パッと 顔を上げ、子供のように手で涙を拭いた。
「ううん、違うの…」と何度も手で涙を拭きながら
「次、捕まっても迎えになんて行ってあげないからね!…わかった!?」と優しく言う
「うん…ゴメン…しない」
「ホントに?」と顔を覗きこむ
「う…うん」
「絶対に?」
「…うん」
「良かったぁ」と俺を見てニッコリする母の目元は
やっぱり 涙でびちゃびちゃだった。
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